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「Blogは80年代のPC」――Six Apart創業者夫妻が来日

» 2005年02月04日 15時40分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「今のBlogは、1980年代のPCのようなもの」――米Six Apartのミナ・トロット社長は、Blogを黎明期のPCになぞらえる。今は一部の個人の趣味用ツールと見られているが、便利さに気づいた個人ユーザーが企業に持ち込み、やがて誰もが使うビジネスツールになる――というのがトロット社長の描く“Blogサクセスストーリー”だ。

 トロット社長は、夫で同社の共同創業者であるベン・トロットCTO、会長のバラック・バーコウィッツCEOと来日。Blogの可能性や同社の強み、今後の展開について語った。

ミナ・トロット社長と、ベン・トロットCTO

 Six Apartは「Movable Type」とASP版の「Type Pad」を提供するBlogツール最大手。国内では@niftyの「ココログ」など大手ISPの個人向けBlogサービスにType Padが採用されているほか、日立製作所がType Padを利用した企業向けホスティングサービス「BOXER BLOG」を提供するなど、企業のマーケティングツールや情報共有システムとしてもBlogツールが利用され始めている(関連記事参照)。

 米国でもBlog利用が企業に浸透し始めているというが、バーコウィッツCEOは、企業向け販売を急激に拡大するつもりはないと話す。「例えば、2000人の営業部隊を率いて法人営業するとことなどありえない」(バーコウィッツCEO)。今後も個人・企業分け隔てなく地道な拡販を続け、まずはBlogの認知度を向上させる。

 Blogの社会的地位が高まってきた米国では、Blog上の発言が原因で社員が解雇される(関連記事参照)などといった問題も浮上してきた。バーコウィッツCEOは「電子メールやメッセンジャー同様、新しいコミュニケーションツールは普及段階で必ず問題に直面し、そこからルールが生まれる。ユーザーは時間をかけてルールを学んでいくだろう」と、解決には時間が必要との見解。トロット社長は「Blogはコミュニケーション手段の1つ。こういう風に使うべき、と定義するつもりはない」と、ルール作りはユーザーにゆだねる姿勢だ。

強さの秘密は?

 創業した2002年当時、スタッフはトロット夫妻2人だけだったが、3年足らずで79人のスタッフを抱える企業に成長した。今は米国本社に加え、日本とヨーロッパに拠点を構えている。

 成長の要因はいくつかある。まず、タイミングに恵まれたこと。Movable Typeの発表は、米国同時多発テロ直後の2001年10月。ネットで自分の意見を発信したい人々が飛びついた(関連記事参照)

 元OmniSky社長のバーコウィッツCEOを迎えたのも、成長軌道に乗れた要因の一つ。「バーコウィッツCEOが来るまでは、会社経営のノウハウがなかった」(トロット社長)。

バラック・バーコウィッツCEO

 ユーザーを集めるだけ集めて、収益はその後考えればいいというネットバブル時のベンチャーとは違い、同社は常に採算を考えて運営してきた。製品は基本的に有償(Movable Type限定ライセンスみ無償)。これがアクティブユーザー率の向上にもつながった。「『お金を払っているのだから、放置せず、頻繁に利用したい』というユーザーが多いようだ」(トロット社長)。

 製品の質の高さも強力な武器だ。Blogに特化した専業企業として、製品の改良や新機能の実装に他社に先駆けて励んできた。「MSNなど他社もBlogに参入しているが、専業ではない」(トロット社長)。Six ApartはBlogに全経営資源を投入できる。

 加えて、強力なユーザーコミュニティが同社を支えている。例えばMovable Typeは、当初から多くの日本人が使っており「日本法人設立前から、たくさんの日本人ユーザーに助けてもらった」(関連記事参照)。

 最近は、オープンソースで高度なソフトが利用でき、Movable Typeと同様な機能を持った製品が出てくる可能性もあるが、それは脅威にならないという。「Movable Typeの方がソフトとして成熟度が高い上、Six Apartから直接サポートを受けられる。オープンソースと比較した上で、サポートが必要と考えてMovable Typeを選ぶ企業ユーザは多い」(トロット社長)。

画像共有やモバイル対応も

 1月、個人向けBlogコミュニティツールで600万ユーザーを持つ「LiveJournal」の運営元・Danga Interactiveを買収(関連記事参照)。ユーザーは「Movable Type」「Type Pad」と合わせ700万人にふくれあがった。

 LiveJournalは、公開範囲を設定できるなどプライバシー機能が充実しているのが特徴。トロット社長は「全エントリーを公開するBlogは今後マイノリティになる」とし、LiveJournalを使って家族や友人限定のBlogを作成するユーザーが増えると見込む。

 最近はソーシャルネットワーキングサービス(SNS)など新しいコミュニティサービスも登場している。バーコウィッツCEOは「Blogの機能として提供しなくていいサービスはない」とし、SNSも参考にしつつ新機能を追加していきたい考え。画像の共有やモバイル通信のほか、投稿文中で複数回現れる単語を抽出し、人気の単語や商品を見つけるデータマイニング機能の実装といった新機能を考えているという。

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