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萌えに真実がある――「萌え萌えジャパン」取材秘話(2/2 ページ)

» 2005年03月18日 00時58分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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「オタク三原則」とは

 自身をオタクと認めない堀田さんだが、自ら提唱する「オタク三原則」には見事にあてはまっている。いわく、(1)自分をオタクと認めない、(2)そのくせ、オタク文化をバカにされると怒る、(3)語りだすと止まらない──だ。

 仕事の資料として買ったはずのグッズは、気づいたらエヴァのアスカやネギま!のエヴァンジェリン、Fateの遠坂凛などに偏っていた。「なんでこんなことになっちゃったのか……、いかにも不思議なことです」――もはや普通の人には戻れないと自覚している。そもそも萌え萌えジャパンは、萌えの世界を普通の人の視点から観察する企画にするつもりだったが、「そうはならなかったかもしれません」。

 オタクと一般人の間には、越え難い一線がある。例えば記者は、オタク文化に無縁な友人に、JTBが発行した萌え系東京案内本「もえるるぶ」を見せたことがある。彼は、女の子が東京案内に奮闘する、巻頭の絵付きストーリーを見て「なぜこんなところにいきなり女の子が出てくるんだ、不必要じゃない」と真顔で話した。オタク独特の文法になじんでいないと、萌えの世界は理解不能なのだ。

 コミケに50万人が参加するなどオタク人口は増えてきているものの、オタク的な物の見方がメジャーになることはないのではないかと堀田さんは言う。「普通の人がくるようになったからコミケが巨大化したのではありません。コアな人がたくさん世の中に現れたから、コミケは巨大化したんです」。

 「たとえば『尊敬する人は二宮金次郎です』と会社の面接なんかで言うことはアリでしょう。しかし『レビル将軍のようなリーダーになりたいです』といってアリな世の中は恐らく来ません。合コンの自己紹介で『好きな女性のタイプはナディア。それも島編のね』と言って『なるほどいい趣味ですね』と言われることも多分ないと思います。日本社会はそこまで寛容ではありません。しかし本来、アニメや漫画は、そうしたメインストリーム以外の場所のほうが居心地がいいはずです」。

 ファンもまた、自分が“主流”でないことは分かっていてながら、それを楽しんでいるという。「声優イベントでペンライトを振る人たちは、自分がカッコいいとは思っていないでしょう。『イテテ』と思いながらも、それを皆で楽しむという複雑さがあります。『俺たちカッコいいだろう』などという自意識よりもよほどカッコいい」。

狙っても売れない萌え市場

 萌えアニメや漫画は、マーケティングで“当てる”ことが難しいという。例えば、メガネっ子が流行しているからといってメガネっ子漫画を作ったり、妹萌えの次は“双子姉萌え”を流行させようと仕組んでも、うまくいかないことが多い。アニメや漫画が本来マイナーな存在であるためだ。「メジャーとマイナーの違いは、ブランド力や広告の力でマーケティングで物が売れるかどうかだと思います。逆にいえばアニメや漫画の世界で売れたものは、自分の好みは別として、どこかにきっと売れるだけの魅力があります。実体がないものが広告やブランド力だけで売れることはありません」。

 最近は、政府がアニメ製作を支援したり、アニメファンドが設立されるなど、アニメに出資する動きも広がっているが、「ハリウッドと同じようにはいかないでしょう。出資した人たちが資金を回収できず、そのままブームが去って新しい才能が生まれる土壌がなくなるともったいない」と危惧する。

 アニメや漫画の人気を左右するのは、資金やマーケティングではなく、作り手の思い入れだと堀田さんは信じている。「人気がある作品は、作り手が“いい”と信じ、思いを込めて作っています」。

萌えを面白くする“オタクエリート”

 第1回コミックマーケットが開催されたのは1970年代中盤。この時期に生まれた人々が30歳を超え、第一線の作り手に回り始めた。「本来オタク分野で同じ人が続けてヒットを出すことは難しかったのですが、自分自身がオタクのメインストリームを体験し、お客さんがなにを求めてるかを自分で実感できる人が1990年代後半から現われ始めました」。

 ネットの影響でオタク文化のすそ野は広がってきた。「小学生が同人小説をWebサイトにアップする時代。この子たちが大人になったころには、どんな世の中になるか」――期待をこめて話す。

 「日本が初めて感情を持ったロボットを作り出すころ、きっとアトムみたいなのじゃなくて、美少女ロボになると思います。しかも大手メーカーではなく、地方の小さなメーカーが作りそう」。

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