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「どうしたら“HP”になれるか」がHPの課題

» 2005年04月28日 18時21分 公開
[IDG Japan]
IDG

 1980年代初期、PCが登場し、コンピュータハードウェアが日用品となるまでの長い道のりを歩み始めたころ、米国には3社の偉大なコンピュータ技術企業があった。IBM、Digital Equipment Corporation(DEC)、そしてHewlett-Packard(HP)。マイクロプロセッサベースのシステムがコンピューティングを一変させたことは今では周知の事実だが、HPが現在直面している課題を理解するには、この3社が、業界を揺るがす変化にどう対処してきたかを振り返ってみるのが有効だ。

 過去20年間、IBMは基本的に技術の階層を上っていく形で、プリンタやコモディティ半導体、最近ではノートPCなどの多くのハードウェア事業から撤退してきた。サービスとソフトウェアの分野で強力な地位を築くため、巨大なメインフレームの基盤を利用した。IBMにはもはや、かつてのような技術上の影響力はないものの、大企業と中堅企業のサポートという明確な戦略的フォーカスを有している。

 これとは対照的に、DECにはIBMがサービス分野で確立したような地位も、コスト主導型のPC事業を勝ち抜く力もなく、このためDECには実際は、安全な行き場がどこにもない状態だった。拡大途上にあったUNIXサーバ事業を過小評価して同事業で失敗したとき、DECの運命は定まった。同社が間もなくPCメーカー(Compaq)に買収され、さらには、かつて栄えたミニコンピュータ業界で同社が打ち負かしたライバル、HPに取り込まれることになろうとは、誰が想像しただろう?

 それに比べると、HPは安定のとりでだ。大きな戦略の変更がなかったのは、HPがIBMやDECのような一貫したコンピュータシステム企業ではなかったからだ。HPは常に、どちらかといえば、電卓、プリンタ、ミニコンピュータ、試験装置や計測器などのシリコンバレー的な事業の集まりだった。この意味で、HPはPC時代のチャンスを生かすのに、より有利な位置にいた。同社には、IBMとDECには決してまねできない流儀で、レーザープリンタのような周辺機器に夢中になれる企業文化があった。

 従って、IBMがサービスで成功し、DECが(その後Sun Microsystemsのものとなる)ミッドレンジ分野での成功をつかんでいたかもしれない間に、HPは、主としてデバイスの会社であり続けた。HPはかつて(やがてIBMに買われることになる)PricewaterhouseCoopersのコンサルティング事業買収を真剣に検討したことがあるが、買収していたら、HPは根源的で想像を絶するほどの企業文化の変化を求められただろう。一方、Compaqの買収は、確かにリスキーで、賢明な策ではなかったかもしれないが、HPの伝統的な戦略の範囲内に十分収まるものだった。

 Compaqの買収は決定的瞬間だった。なぜならそれは、HPがもう引き返せず、PCとローエンドサーバで成功しなければ悲惨な未来が待っていることを意味していたからだ。HPはまだ、エンタープライズ分野でのポジション拡大のために、SunあるいはNovellの買収といった動きを検討することはできるだろうが、IBMのようにただ階層を上っていくことはできないし、DECのように中核事業で失敗することは許されない。

 だから、もし私がHPの新CEO、マーク・ハード氏だったら、こう自問するだろう。「ださくてつまらないボックスを売り、サービスレベルも落ちているDellが、本当に当社が張り合えないほどの強敵なのか?」「Apple Computerではあれほどたくさんデザインや製品のイノベーションが起きているのに、なぜ当社ではこんなに少ないのか?」「なぜいまだにLinux PC構想を本気で進めようとする大手PCメーカーがいないのか?」「なぜ当社はイメージング分野とマネジメント分野でさらに強くなれないのか?」と。

 HPは、中核製品技術へのフォーカスを再び活性化することによってのみ、活力を取り戻し、現在の同社の行く手にある痛みを伴う分割を避けることができる。

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