「……アムロか?」――それが出会い(実話)。
日記「59番」第1回、出会い編。ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)「mixi」の日記としてつづられた、モテ系キャリアウーマンとモテないオタクの恋物語の冒頭シーンだ。
全20回のストーリーを読んだユーザーは累計20万人以上。オタク男性から特に強い支持を受けたというこの日記は書籍化され、6月15日に美術出版社から「59番目のプロポーズ」として発売される(関連記事参照)。
筆者のアルテイシアさん(ハンドルネーム、30歳)は、元大手広告代理店の営業職。今は独立してフリーのコンサルタントだ。
これまで“モテ系”男性――実業家や有名デザイナー、ミュージシャンなど――ばかりと付き合ってきたというアルテイシアさん。交際した数13人。告白された数58人。59番目に告白されたのが、“モテない病をこじらせた”32歳のオタクだった。
アルテイシアさんがmixiを始めたのは昨年11月。遠くに住む友人に近況を伝えようと、毎日のように日記を更新していた。
最初はただの日記だった。その日にあったことを、面白おかしく書いていた。生まれも育ちも神戸の関西人。笑いのツボを心得た軽妙な文章に、知らない人からも「面白い」とコメントがついた。
ちょっと笑える普通の日記が、キャリアとオタクの恋物語に変わったのは昨年12月4日。バーで出会った「59番」――59番目に告白してきたオタク男性――について、日記で触れたのがきっかけだった。
バーで2人を結んだのはアムロの着ボイス。アルテイシアさんの携帯が、「間違いない! メールだ」と静寂を破った時、冒頭のように声をかけられた。
59番さんのガンダム知識は、ガンダム好きを自認するアルテイシアさんを超えていた。「マクベの鉱山のおかげでジオンはあそこまで強くなったんですよ」「ランバラルの奥さんのハモンが、昔はマクベの女だったって知ってます?」――そんな会話は、とにかく楽しかった。
バーに行くたび、彼はいた。アニメ、漫画、ゲーム、格闘――泉のように湧き出る「非常に偏った分野の」深い知識に感嘆した。
とはいえ、初めはただの面白い人でしかなかった。日記にも、面白おかしく紹介した。
それが恋のようなものに変わったのは、酔った勢いで誘ったコンパ。二次会のカラオケで「哀戦士」「シャアが来る!」を、59番さんとデュエットした。酔っ払ったアルテイシアさん、「『めぐりあい宇宙』の最後のセリフをあれほど完璧に言ってくれた男の人って初めてかも……」と「ちょっとぽーっとなった」。
告白は、コンパの帰り道。「すごく好きなんで、付き合ってもらえませんか!!!」。そして手を握り「この手を一生離したくないんです!」。
オタクからの、想定外の告白。これまで、マーケティングで男性を落としてきた――相手がどんな女性に惹かれるかを分析し、それを演じる――という彼女にとって、意表を突く展開だった。59番さんにはいつも、自然体で接していたから。
混乱したアルテイシアさんは、とっさにこう答えた。「男の人に『やらせてくれ』と言われ続けたこの人生。一生とか言われてもそんなに簡単に信用できない」。彼は負けずに切り返す。「何人に言われたんですか?」
「58人くらい」――適当に答えると、彼は言った。「じゃあ、僕は59人目にして初めて『やらせてくれ』と言わない男になります! 指一本触れません!」
――アルテイシアさんは心を揺さぶられた。こんな告白は、初めてだった。でも、いくつもの恋に傷ついた経験が、即答をためらわせた。
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