Appleは、このスタートレック計画の後、IBMと固く手を取り合って、Wintel(Windows+Intel製ハード)打倒とPowerPC普及に精を出し始める。「PowerPC Reference Platform(PReP)」や「Common Hardware Reference Platform(CHRP)」というWintel対抗のオープンなパソコンハードウェア仕様までIBMらと共同で策定している。
いったい、スタートレック計画に何があったのだろう。これについてはいくつかの説がある。
スタートレック計画が始まった頃には、既にAppleはIBMと手を組み、(主にPinkという次世代OSのプラットフォーム用として)PowerPCというCPUを開発する計画を発表していた(すぐにモトローラもこれに加わった)。
そんな頃、スキー休暇を楽しんでいた「Macintosh IIfx」チームの1人が、PowerPCが十分に高速なら、68000系CPUの動作をエミュレーションできるはず、と言い出して、その開発を始めた(初代PowerMacintoshプロダクトマネジャー、ジム・ゲーブル談)。実際、完成したエミュレーターは、かなり高速で、PowerPC上で、ほぼそのままの手を加えない(68000用の)Mac OSが動くことがわかり、PowerPCが、Pink OSだけでなく、MacのCPUとしても使えることが明らかになってきた(実際、これと前後して、PowerPC版Mac OSの開発が始まっていたようだ)。
それまで宿敵と思われていたIBMと、大々的に提携劇を打って出たApple首脳陣の中には、「Intel製CPUに入れ込んでしまったら、PowerPCの立場がどうなるのか」という懸念もあったようだ。さらに、Appleは当時、既にいろいろな研究開発で、膨大な資産を食い尽くしており、開発費的にもスタートレック計画かPowerPC版Mac OSか、どちらか1つに絞らざるを得ない状況に追い込まれていた、とも言う。
だが、私に、もっとも説得力がある答えをくれたのは、前出の当時のCEO、ジョン・スカリーだ。
彼の説明によれば、Appleは、ハードウェア依存のビジネスモデルで成り立っている。もし、AppleがIntelプラットフォーム用のMac OSをつくり、このOSの儲けだけで、収益をあげようとすると、パソコン1台あたり150ドルのライセンス料を徴収しなければならない。
しかし、当時、MicrosoftのOSはパソコン1台あたり、その10分の1の15ドルでライセンスをしていた、というのだ。そこでAppleは直接の競合を避け、PowerPCという新しいCPU、新しいプラットフォ−ムの構築に将来をかけることになる。
だが、このインタビューのとき、スカリーはこう言い切った。「Intelを選ばなかったことは私の最大の失敗だ」と。これが最初にダン・アイラーがIntel移行を提案した時のことなのか、スタートレック計画を最後の審判にかけた時の判断なのかは、聞きそびれた。
しかし、ここでAppleとIntelの運命は、再び引き離されることとなった。
AppleとIntelの歴史(その1)
年 | Apple | Intel | Motorola | IBM | そのほか |
---|---|---|---|---|---|
1971 | 「4004」世界初のCPU | ||||
1972 | 「8008」 | ||||
1973 | |||||
1974 | 「8080」 | 「6800」 | |||
1975 | MOS Technology「6502」 | ||||
1976 | Apple Computer創業(4月) | Zilog「Z80」 | |||
1977 | 「Apple II」 | Commodore「PET」(6502搭載) | |||
1978 | 「8086」 | ||||
1979 | 「8088」 | 「68000」、「6809」 | |||
1980 | |||||
1981 | 「IBM PC」(8088搭載) | ||||
1982 | 「80286」 | 「68010」 | NEC「PC-9801」(8086搭載) | ||
1983 | 「Lisa」 | ||||
1984 | 「Macintosh」 | 「68020」 | 「IBM PC/AT」(80286搭載) | ||
1985 | 「i386」 | ||||
1986 | |||||
1987 | 「68030」 | ||||
1988 | 「88000」 | NeXT Computer「NeXT」(68030搭載) | |||
1989 | 「i486」 | 「NeXTSTEP 1.0」 | |||
1990 | 「IBM DOSバージョンJ4.0/V」 | 「Windows 3.0」 | |||
1991 | 「System 7」 | 「68040」 | AppleとIBMがPowerPC開発で合意、Motorolaも参加 | ||
1992 | 「スタートレック計画」開始 | 「Windows 3.1」 | |||
1993 | 「Pentium」 | 「PowerPC 601」(G1) | 「PowerPC 601」(G1)、「PReP計画」 | 「Windows NT3.1」 |
AppleとIntelを中心に本記事に関連する主なトピックについて掲載した。
後編:接近と別離に続くCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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