E-Inkの実用化が加速しはじめた。シチズン時計は、E-Inkを表示部に使った設備時計を年末に発売する。同社はE-Inkを、駅の電光掲示板や携帯電話のサブ液晶、プリペイドカードの残額表示などに応用していきたい考え。液晶の“次”を担う表示デバイスの1つとして実用化を進める。
E-Inkは、米E-Ink社が発表した電子ペーパーで、独自の「マイクロカプセル型電気泳動方式」で表示する。透明電極と背面電極との間に敷き詰めたマイクロカプセル内に、プラスに帯電した白い粒子(酸化チタン)、マイナスに帯電した黒い粒子(カーボンブラック)、オイルを封入。電圧をかけて粒子を動かし、白黒を表現する(関連記事参照)。
液晶よりも白反射率やコントラストが高く、視野角は180度とどこからでもはっきり見える。電圧を切っても最後に表示した画面を保持でき、消費電力は液晶の数分の1と省電力なのも特徴だ。国内では、ソニーの電子ブック「LIBRIe」で採用されている(関連記事参照)。
シチズン時計はSTN液晶モジュール大手。だがSTN液晶は市場が飽和気味で、次の柱になる新デバイスを模索中。有力候補の1つとしてE-Inkに着目した。
同社は、凸版印刷が開発したE-Inkフィルムをフレキシブルなプラスチック基板上に貼り付け、曲げられるE-Inkデバイスを開発。製品化第1弾として、弓形デザインの設備時計を年末に発売する。
会社の受け付けなどに置く設備時計は、個性的なデザインでメンテナンスが楽なものが好まれるといい、大型ながら単3乾電池×2本で数年持つというE-Ink時計設置の場としてはうってつけだ。弓形の標準タイプのほか、企業オリジナルデザインの時計の受注生産も受け付ける。
E-Inkモジュールの応用範囲は広い。大型なら、掲示板やポスターとして利用可能。フレキシブルなため円い柱にも張り付けられる。LEDの数十分の1という省電力性をアピールし、省エネブームも追い風に受注を狙う。
小型モジュールでは、ラウンドフォルム携帯の背面液晶向けや、炊飯器など曲面のある家電の表示部向け、スーパーマーケットの商品の陳列棚用価格表示タグといった応用例を想定する。
JR東日本の「Suica」など、プリペイドカードの残額表示も使える。非通電時も表示が消えないため、カードリーダーにかざした際に残額を読み取り、印字しておける。
普及のネックは価格と耐久性だ。E-Inkモジュールの価格は現状、白黒の液晶モジュールの数倍といい、民生品向けに売り込むには高すぎる。また、プラスチックを基板に使ったフレキシブルモジュールは、ガラスよりも高温・高湿度に弱い。今後は、開発を進めて耐久性を高めつつ、量産体制に移行して低価格化を進め、普及に弾みをつけたい考えだ。
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