ITmedia NEWS >

「ITは、蝶の羽ばたきをハリケーンにする」――北川前三重県知事

» 2005年08月02日 19時14分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 北京で1匹の蝶(ちょう)が羽ばたくと、ニューヨークでハリケーンが生じる――ミクロの動きが予想もしなかった結果をもたらすという「カオス理論」でよく引かれる例えだ。ITやネットにもこの例があてはまると、北川正恭・早稲田大学大学院教授は話す。

photo 「20匹の蝶の羽ばたきが響き合えば、20匹分以上のパワーが生まれる」と北川教授

 北川教授は、前三重県知事で地方分権の旗手。「マニフェスト」(政権公約)の提唱者でもある。8月2日、総務省の研究会「ICTを利用した地域社会への住民参画のあり方に関する研究会」にゲストとして参加し、ITと住民自治について話した。

 北京で1匹の蝶が羽ばたくと、近くにいた蝶がそれを見てうらやましいと思い、羽ばたいてみる。その近くにいた蝶がまた羽ばたいてみる――そんな繰り返しで、地球の裏側にハリケーンを起こすというプロセスが、冒頭の例だ。

 「北京の1匹の蝶が、自ら変わってみよう、羽ばたいてみようと思うという意志と努力があったからこそ、大きな力が生まれた」と北川教授は話す。個人の力は小さくても、1人が思い立って何かを始め、他の人のエネルギー共鳴し合うと、予想も付かない結果をもたらしうる。ネットはこの響き合いを増幅する力を持つ。

 北川教授が三重県で起こしたマニフェスト運動がその好例だ。三重県での小さな羽ばたきは、他の地方の“蝶”の共鳴を誘い、中央にハリケーンを起こした。2003年の衆院選では各政党がマニフェストを公表。一部政党はネットで公表し、アクセスを集めた(関連記事参照)

 「マニフェストは、IT社会がもたらしたリエンジニアリング」(北川教授)。ネットによって人間関係がフラットになり、立場の違う人々の双方向コミュニケーションや情報公開が進んだのと同じ構造で、マニフェストによって候補者と有権者が近づき、現実的な選挙公約が公表されるようになってきた。駅前で名前を連呼したり、“破るための公約”を掲げていた選挙の構造は変わりつつある。

 「自立した個人の共鳴で社会を変えるのがIT。ITを使いこなすことで、プロセスや意識は変化する」(北川教授)

 北川教授は、携帯電話のネット機能を使いこなせないという自分自身を「老害」と揶揄(やゆ)。国民のITリテラシーを高める第1歩として、地方議会などの議員に集中的にITを教えれば面白いだろうと話す。地方の小さな羽ばたきは、中央にハリケーンを起こしうる。

地域SNSの課題

 同研究会では、総務省が今年末からの運用を予定している、新潟県長岡市と東京都千代田区のソーシャルネットワーキングサイト(SNS)について、自治体の首長や総務省の担当者など12人が集まり、意見を交わした(関連記事参照)

photo

 東京・三鷹市の清原慶子市長は、同市で携帯電話などを使ったコミュニケーションツールの実験を行ったものの、うまくいかなかったという経験を元に、SNSでは具体的なテーマや、ユーザーが参加したくなる仕掛けを作ってほしいと提案した。

 また、ネットを絶対視せず、情報誌やミニコミ誌、地域CATVなどとの連携したサービスを考えてほしいとの意見も出た。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.