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ネット発信する郷土――コスプレも農家もこなす41歳女社長岩手発(2/2 ページ)

» 2005年10月21日 11時10分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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河童コスプレで「なんちゃってアイドルDVD」製作

 初DVDは、河童のコスプレをしたさゆりさんを3人分合成し「うしろゆびさされ組」の替え歌に乗せて踊るたなんちゃってアイドルユニット「3人祭〜尻こだま抜かれ隊」。「河童に尻こだまを抜かれる」という表現のリリカルな響きに惹かれ、「尻こだま抜かれ隊」というアイドルになりたいと突然思ったという。

photo 衣装制作は母が担当。38歳(当時)の娘の「河童の衣装を作って」との依頼を、何の疑いもなく2つ返事で引き受けてくれたという

 当時流行していた、ハロープロジェクトの「三人祭」のDVDにインスパイヤされ、自分の画像を3人合成してグループにすることに。母親に河童の衣装を作ってもらい、台本を書き、自ら踊った。背景には河童の里・岩手県遠野市の画像を組み合わせ、CGを駆使して地域密着型コンテンツに仕上げてNHKのデジタル映像コンテストに応募したところ、番組で紹介され、審査員に高く評価された。この後、印刷会社からプロモーションDVDの制作依頼も受け、BCACのメニューには「DVD制作」が加わった。

 テレビ局や自治体、企業のキャラクターデザインも手がけるが、これもまったくの素人だった。初デザインは、岩手放送(IBC)の犬のキャラクター「ちゃお」「うの」「ぺそ」。サイトデザインのセンスを買われて依頼を受け、「適当に」描いてみたところ、子どもたちに人気のキャラに育った。

photo IBCのキャラクター。左から、元気で明るいイタリア犬気質、前向きなあまりに、不幸な予測は一切できないという「ちゃお」、お金持ちの家に飼われ、専用の執事(顔はヒツジ似)をロビーに待たせているという「うの」、パンダによく似た雑種犬で、橋のふもとのサラリーマン家庭に飼われているという「ぺそ」

農業とITと花巻と

 デザインとITを得意としながらも、軸足はあくまで地元・岩手県と、農業に置く。岩手放送のキャラクター・ちゃおを象った田んぼを作って子どもや留学生に農業体験してもらう「田んぼでCIAO!」を岩手放送と共同で企画し、Webサイトを運営したり(関連記事参照)、父の名を冠した玄米「惣兵衛米」の栽培やネット販売を手がけるなど、農業とITの自然な融合を目指してきた。

photo 田んぼでCIAO!

 「農業は大変だけど、『大変大変』と言っていても始まらないから『楽しくやろうよ』と言いたい。1粒の種もみから稲穂がつき、お米になって、人の命を直接支えられるのは、すごくミラクルだと思うから」

 若者は都会に流出し、農業の継ぎ手は減っている。しかし、都会からわざわざ花巻まで来て、農業をやりたいという人がいることも、ネットを使って証明してきた。「農業は、血縁にぐりぐり継がせなくてもいい時代がきているのではないかと思います」

 作るコンテンツすべてに、地元への愛がにじむ。8月には岩手放送と共同で、ポッドキャスティング番組「JENGO de 英語」をスタート。花巻弁を、得意の英語と対照させて紹介し、花巻の文化を全国に発信する。

 「花巻は、何もないところがいいんです。米があって、野菜があって、人がいい。中途半端に都会化するのではなく、何もなくても来てもらえる地域にならないとダメじゃないかな」

無駄なことに意味がある

 「次は、ヘルスアンドビューチィです!」――くるくるの眼をきらきらにして、さゆりさんは話す。自家製の米や野菜をおいしく食べてもらうレストランを作るのが今の目標。「自家製の米も、ただ売って終わりではなく、おいしい食べ方までトータルで提案したい」という。

 新しい世界をまっすぐ見据えながら、“無駄なもの”を生んで楽しむ余裕を忘れない。自家製の米「惣兵衛米」のWebサイトでは、全国の「惣兵衛」という名のつく店などを訪ね歩く「全国惣兵衛米めぐりの旅」を実施中。東京都の「惣兵衛最中本舗 あわ家惣兵衛」や大分県の「西の誉酒造 増田屋惣兵衛」など、この企画のためだけに全国を旅した。「これをやったからといってどうという訳じゃないことに、意味があるんですよ」

 BCACの会社履歴。「これから」の欄は、「だれもが えっ?!と驚くような発展を遂げつつ、社会に貢献する」とある。「あまり具体的に書くと、スケールが小さくなっちゃうから」――彼女の目線の先には常に、無限の未来が開けている。

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