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「ビリヤード」的トランジスタ設計、米大学が開発

» 2006年08月18日 18時30分 公開
[ITmedia]

 米ロチェスター大学の研究者が、これまでとは劇的に異なるトランジスタを考案した。

 このトランジスタは同校の大学院生クエンティン・ディダック氏が考案したもので、「Ballistic Deflection Transistor(BDT)」と呼ばれる。「皆は現行の設計を修正することでよりよいトランジスタを作ろうとしているが、われわれに必要なのは次のパラダイムだ」と同氏は語る。

 このトランジスタ設計では、電子が水のように「流れる」現行のトランジスタとは違って、個々の電子がデフレクターの間を「バウンドする」――まるで原子のビリヤードのように――と研究チームは説明している。

 従来の設計では電子の流れを開始・停止することで演算を行っている。だがBDTは、選択した軌道に電子をバウンドさせ、慣性を利用して誘導するという。BDTは真ん中に三角形のブロックがある十字路のような構造をしている。「南側」から電子が発射され、十字路に入って電界を通る。この電界が電子をわずかに西か東に押しやる。

 電子が十字路の真ん中に到達すると、三角形のブロックの側面に当たってバウンドし、西か東の通路に入る。電子が東へ行けば「0」とカウントされ、西へ行けば「1」とカウントされる。

 従来のトランジスタはキャパシタ上の電子の集合を「1」とし、それがなくなると「0」とカウントする。キャパシタ上に電子を移すのはバケツに水を満たしたり空にするのと似ており、バケツを満たす(あるいは空にする)のに時間がかかるのが欠点だと研究チームは指摘する。これが現行のトランジスタのスピードに限界をもたらしているという。また2つ目の欠点として、エネルギーを空にする際に大量の熱が発生する点が挙げられている。

 BDT設計を採用した半導体は、消費電力や放出する熱が非常に少なく、電子システムに特有の「ノイズ」に強く、非常に高速になる。また今の技術で容易に製造できるはずだと発表文には記されている。

 研究チームはBDTのプロトタイプの作成に成功。このプロタイプは従来のトランジスタ設計と同程度の大きさであり、研究者らはもっと小さくできると自信を持っている。

 だが、この設計にもハードルはある。研究チームは「T(テラ)Hzの半導体のスピードを測る方法について話しているところだ。THzのオシロスコープなどないので、テスト方法を考え出さなくてはならない」と話している。

 米国立科学財団はBDTのプロトタイプ設計のために、ロチェスター大学に110万ドルの助成金を授与したという。

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