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ハイブリッドP2Pで動画配信してました――TVバンク

» 2006年09月26日 20時07分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 TVバンクは9月26日、数万人規模のユーザーに対して高画質な動画コンテンツを同時に配信できる「BBブロードキャスト」を、同社グループの中国企業と共同で開発し、運用していると発表した。P2Pとサーバ−クライアントモデルを併用した仕組みで、視聴者が増えるほど割安で安定した配信が可能という。

 「オーバーレイマルチキャスト」と呼ばれる技術を活用した。同社グループの中国Roxbeam Media Networkが基礎技術を開発し、日本のサービス向けに最適化した。

画像 現在の動画配信システムの多くは、視聴者数に比例してトラフィックが増えるユニキャスト

 オーバーレイマルチキャストは、IPマルチキャストの進化形。サーバが送信したデータを複数に分け、複数のクライアントPCに同時に転送する。データを受け取ったPCは、別のクライアントPCとデータを相互に転送し合う。

 動画配信で一般的なユニキャスト方式は、サーバとクライアントが1対1で通信するため、視聴者数に比例してトラフィックが増加していく。オーバーレイマルチキャストなら、視聴者が増えるほどデータ転送するノードも増えていくため、サーバやネットワークに対して大きな負荷をかけることなく、大量の視聴者に対してデータを送信できる。IPマルチキャストと異なり、クライアントのISPが異なっても利用できるのが特徴だ。

 BBブロードキャストの場合は、PCに専用ソフトをインストールすればネットワークに参加できる。システムにログインすると、まずブートサーバから接続先のクライアント一覧「初期パートナーリスト」を受け取る。PCはリスト上のパートナーと接続し、ネットワークを構築。同時に「配信支援サーバ」から動画の冒頭部分を受け取る。

 動画の続きは、パートナーPCのキャッシュからデータを受信して再生する。パートナーが十分な数集まらなかったり、パートナーPC内に必要なデータがない場合は、配信支援サーバにアクセスし、サーバから直接データを配信してもらう。P2Pとクライアント−サーバモデルを組み合わせたモデルで、データを効率よく届けられるようにした。

 「P2P」と「動画」の組み合わせには著作権侵害のイメージが付きまとうが、BBブロードキャストなら「コンテンツは強固に守られ、第三者に不正に加工されることはない」(同社システム統括部の川原洋統括部長)としている。

 データはWindows Media DRMで保護し、転送の際はさらに細分化、暗号化する。動画再生時は、細分化された多数のデータをパートナーやサーバから収集し、再構築した上で複合化する。処理はメモリ上で行うため、ユーザーのHDDにはデータを保存しないという。

通信と放送の“谷間”を狙う

 同サービスのターゲットは、「ユニキャストとテレビの間」。ユニキャストではコストがかかりすぎるが、テレビほど多くリーチは必要ない、数万人〜100万人規模への配信を想定する。

 例えば、100万人のユーザー(地上波テレビの視聴率2%相当)に対して1.5Mbpsの動画を2時間分配信する場合、ユニキャストなら通信費用が6億7500万円かかるといい(1Gバイトあたり500円で試算)、「ビジネスとして成り立たない」(同社の中川具隆COO)が、BBマルチキャストならこれを数分の1〜数十分の1程度に抑えられる。

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 9月22日にBBマルチキャスト方式で配信したEXILEのライブは、ビットレートが768Kbps、最大同時視聴者数が2万5302人だった。単純に掛け合わせると、全体のトラフィックは19.4Gbpsになるが、実際の送信トラフィックは最大4.2Gbps。ユニキャスト方式の約5分の1に抑えられたとしている。野球中継で実験した際は、全体のトラフィック9.21Gbpsに対して実際は1.01Gbpsと、約10分の1に抑制できた。

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 バックボーンのトラフィック量が抑えられるため、いわゆる「ただ乗り論」に対するコンテンツ配信側の1つの答えにもなりそうだ。

 ソフトバンクグループは、昨年12月のTVバンク設立以前からこの仕組みを研究し、プロ野球中継などで実験を行ってチューニングを繰り返してきた。今後も野球中継で実験を続けるほか、24時間連続配信のストリーミングサービスや、VOD(ビデオオンデマンド)コンテンツにも応用していきたい考えだ。

 ただ、いつでも見られるVODの場合は、同時視聴ユーザー数がストリーミングよりも少なくなる可能性が高い。「BitTorrentのように、一晩待たないとコンテンツが配信されない、では意味がない」(中川COO)――スケールメリットを出しながら、VODで経済的に運用できる手法を探っていく。

「GyaOは前から超えている」

 中川COOによると、Yahoo!動画のユニークブラウザ数は、8月単月で800万を超えているという。同日報道されたデータによると、Yahoo!動画のユニークユーザー数は8月にGyaOを超えているが、「TVバンクも含めたYahoo!全体だと、昨年のTVバンク立ち上げ当時から、GyaOに勝ったり負けたり、という状況」(中川COO)という。

 今後、Yahoo!内の動画配信サービスで、広告を挿入できるコンテンツに関して、視聴数などを発表する予定だ。

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