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「ネットは遊び場」――「字幕.in」を1人で作る25歳・無職ITは、いま――個人論(2/3 ページ)

» 2007年03月12日 13時07分 公開
[岡田有花,ITmedia]

2ch閉鎖騒動に便乗したものの……

画像 今は、2ちゃんねる風の掲示板が手軽に作れる掲示板ホスティングサービスとして運営している「2ちゃんねる2」

 今の2ちゃんねる2はレンタル掲示板サイトだが、当時は、2ちゃんねるとそっくりな総合掲示板だった。2001年8月、2ちゃんねる閉鎖騒動が起きると、矢野さんはすかさず、2ちゃんねる2を「避難先」として各スレッドで紹介。“2ちゃんねる難民”を集めることに成功し、2ちゃんねる2にアクセスが集中した。

 だが、人が集まりすぎてレンタルサーバの転送量上限を超え、サーバを追い出されてしまう。当時の矢野さんにはネットワークや負荷分散の知識もなかったため、2ちゃんねる2は結局、閉鎖を余儀なくされた。

 アクセスが集中しても落ちないインフラを作る技術は、次に就職したヤフーで身に付けた。

あこがれのヤフーへ

 日刊スポーツでの2年間の経験をひっさげ、21歳の時再びヤフーの中途採用枠に応募。表参道のオフィスで面接を受け、エンジニアとしての採用が決まった。当時最年少入社だったと聞いている。

 ヤフーで学んだことは大きかった。サイト構築の知識やプログラム言語だけでなく、サーバやネットワークなどインフラ面の知識、サービスをビジネス化する過程――個人では学べないようなことが吸収できた。サービスの穴を探すのが得意ないたずら好きな性格は、時に社内で問題になったが、バグ発見にも役立った。好きが高じて、頼まれもしないのに社内向けの便利ツールを構築したりもした。

 個人サービスも作り続けた。QRコード作成サイト「QRCODE.JP」や、Webページのキャプチャ生成ツール「WebsSan.JP」、暗号生成ツール「暗号君」などを思いつくままに作って公開した。

 「サービスを作りたいというよりは、人が集まったりしてコミュニケーションが生まれるのが面白くて」。技術が好き、というわけではなく、技術バリバリのエンジニアはちょっと怖いとさえ思う。ただ、作ったものが使ってもらえるのが、とにかくうれしいという。

 23歳でヤフーを辞めた。独立し、個人サービスを本格展開するつもりだった。だが偶然ライブドアから声がかかり、ライブドアに転職。プロデューサーとしてSNS「フレパ」のリニューアルを担当した。

 大手SNSのユーザー数を累計し、伸びを比較するサービス「SNS統計ページ」を個人で作ったのはこのころ。計算結果を見ながら、フレパのユーザー数がmixiを抜くのはいつか、考えてみたりした。

 ライブドアには半年在籍し、技術だけでなくサービスの企画から関わった――が、やはり作る方が楽しく、頼まれもしないのに社内向けツールを作っては、見知らぬ担当者にメールで送ってあげたりした。

 その後、ライブドア元幹部が立ち上げたSNSベンチャー・ウフルにCTO(最高技術責任者)として招かれ、システム開発から対外交渉までこなした。ちょうどYouTubeが流行し始めたころ。個人として、YouTube関連のサービスを集めた「YouTubeちゃんねる」や、動画をジャンル別に高速再生できる「YouTube Flash Player β」などを作ったほか、人気動画をテレビ風に流すサービス「YouTube TV」は、同様な仕組みで話題になったはてなの「Rimo」よりも2カ月早い、昨年12月に公開した。

 会社の仕事と個人サービスを両立させながらも、自分はどうやら、会社組織に合わない体質らしいと思い始めていた。「企画書を作り、スケジュールをがっしり組んで、みんなで話し合いながら進めていくようなのは苦手で」

 やりたいサービスだけを、楽しく作っていきたい――昨年いっぱいでウフルを辞め、無職になった。無職として初めて立ち上げたサービスが、字幕.inだ。

発作的に作る

 きっかけは、ニワンゴが展開している、動画にコメントを付けられるサービス「ニコニコ動画」のテスト公開だった。動画の上に文字が流れる様子を見て、「字幕も作れるだろう」と気付き、年末から正月にかけて試行錯誤しながらサービスを構築した。

 「発作的に作るんです」。新サービスはたいてい、深夜に思いつき、明け方までに作り上げてしまう。アイデアが洪水のようにわき、作らずにはいられなくなる。

 企業がネットサービスを作る場合は、まず企画書を書き、機能やコンテンツを精査してスケジュールを組み、スケジュール上きつそうな機能は削ぎ落としていく――というプロセスが一般的。だが矢野さんの個人サービスは、あれこれ考える前にまず作ってしまい、バグだらけでもいいから公開する。そうする理由は2つある。

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