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「Second Lifeの可能性に賭けている」――電通の展望

» 2007年09月10日 11時49分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 電通がSecond Life開拓を進めている。複数の島(SIM)を確保し、企業や大学を誘致する「バーチャル東京」を8月23日にオープン(関連記事参照)。すでに東京放送(TBS)とみずほ銀行がバーチャル東京で活動を始めたほか、慶応義塾大学の参入も決まっている。


画像 みずほ銀行は観覧車を設置
画像 TBSは「世界陸上」に合わせてスタジアムを設置した

 ただSecond Lifeは、日本人ユーザーが少なかったり、操作性が悪くサーバも不安定――などといった課題が指摘されており、企業が大々的に参入するには時期尚早ではとも指摘されている。

 「確かにSecond Lifeには課題は多い。ユーザー数も少なく、今は広告価値もない」と、電通メディア・コンテンツ計画局企画調査部スーパーバイザーの粟飯原(あいはら)健氏も認める。それでも同社が開拓を進めるのは、Second Lifeの可能性を信じているから。「3次元仮想世界は今後進化する。その可能性に賭けている」

なぜ電通がSecond Life

 粟飯原氏がSecond Lifeを知ったのは昨年4月ごろ。国内外の投資案件を審査する粟飯原氏の部署に、米国発のビジネスの1つとして持ち込まれたという。

 当時は世界の登録ユーザー数が20万程度(2007年9月10日現在は約984万)と小規模だったが、米Linden Labは日本への参入をすでに計画しており、直接会って話も聞いた。「3次元仮想世界プラットフォームはほかにもあるが、日本に進出するのはSecond Lifeが第1弾になるだろう。ビジネスの可能性を探っておこうと思った」

 Second Lifeに可能性を感じた粟飯原氏は、取引先企業にも折に触れてSecond Lifeを紹介。昨年末ごろから「Second Lifeを説明してほしい」とオファーを受けることも増えてきたという。また、Second Lifeに法律面・セキュリティー面などで課題があることも分かってきた。

 今年1月、同社とデジタルハリウッド大学院が共同で発足を発表した「Second Life研究会」は、興味を持つ企業に対してSecond Lifeを説明し、課題やビジネスの可能性について議論する場として生まれた(関連記事参照)。すでに90社以上が参加しているという。

画像 粟飯原氏

 8月24日にオープンした「バーチャル東京」は、研究会で議論した内容を実際に試すための実践の場、という位置付けだ。

 最初に参入したTBSとみずほ銀行はそれぞれ、ユーザーコミュニティーに受け入れてもらうための仕掛け作りに重点を置き、砲丸投げなどゲームが楽しめるスタジアムを作ったり、仮想観覧車を置いたりして、訪れたユーザーに楽しんでもらえるよう配慮している。

 「Second Lifeはユーザーが何でも作れる自由な場だが、何をやっていいか分からないユーザーもいる。そういうユーザーに対して、リアルな世界でも企業が果たしているような、娯楽の提供や利便性の向上、コミュニティー活動の支援などを、ユーザーと向き合いながら行っていきたい」

3次元ネットは「企業と消費者の新たな接点」

 企業にとってSecond Lifeは「海のものとも山のものともつかないものだが、消費者とダイレクトにつながる新たなコンタクトポイントで、コミュニケーションの場。企業が社会的な存在価値や意義と向き合う場所でもある」という。その新たな場に企業がどう進出し、どういった役割を果たすべきか――研究会や、バーチャル東京の運営を通じて検討を続けている。

 Second Lifeにもっとも興味を持つ業種は金融業という。「金融業は、インターネットやiモードなど新しいプラットフォームが出るたびに、その上で事業展開してきた。ネットを使ったECなどは当初『クレジットカード番号を入力しても大丈夫なのか』『商品はちゃんと届くのか』などと不安に思われていたが、今は浸透している。同じことが3D仮想世界で起きる可能性がある」

 3D仮想世界は、金融業だけでなく、さまざまなビジネスの可能性を広げると見る。「例えばマンションを販売する場合、3次元図を見せるために客に専用ソフトを渡すというケースがあったのだが、Second LifeならWeb上で3次元図を見せられる。製造業なら、開発中の商品のCADデータを活用してSecond Life内に商品オブジェクトを作成し、商品が完成する前に販売店の店員を教育する――といったことも可能だろう」

「人がいない」「重い」――課題とどう向き合う

 ただSecond Lifeには課題が多い。Linden Labが発表したデータによると、日本人のアクティブアバター数は2万7000(7月時点)と人気のコミュニティーサイトやMMORPGにも遠く及ばない。快適に利用するにはハイスペックなマシンが必要で、ユーザーインタフェースは複雑で使いにくい。サーバも不安定で、1つのサーバ(SIM)に同時にアクセスできるユーザーは50人程度までという極端な制限もあり、大規模なプロモーションには向かない。

 「Second Lifeの現状だけを見るのなら、われわれもやらないだろう。ユーザーは少なく、操作性などにも課題は多い。今は広告価値もない。投資効果などを理詰めで考えると“超えられない壁”がある」と粟飯原氏も認める。

 「だが、合理的に考えて正しい結果につながることもあれば、そうでないこともある。今後どうなるか分からないが、分からないからといって、可能性を全否定することにはつながらない。3次元には可能性を感じるし、ゆくゆく進化していくと思う。その可能性に賭けたい」

 日本でSecond Lifeが一般化するまで2〜3年かかると粟飯原氏は見ている。日本人ユーザーが今後増え続ければ、市場としての可能性も見えてくるはず。コミュニティーが育つまで、じっくりと取り組んでいく考え。操作性やサーバの安定性については、同社からもLinden Labに改善を求めているという。

Second Lifeは「T型フォード」

 3次元仮想世界はSecond Lifeだけではない。問題が多いなら、それらを解決した別の3次元仮想世界を作ってしまう、という手もある。粟飯原氏も「Second Lifeだけにこだわっているわけではない」としつつ、日本発のオリジナルサービスを今から企画するよりは、Second Lifeを利用した方が効率がいいと見ている。

 「日本発のサービスを作っても、国内だけを向いた“鎖国状態”のサービスでは世界に対するインパクトがない。だったら既に1000万ユーザーがいて世界に開かれているSecond Lifeに、日本的な改良を加えていったほうがいい」

 Second Lifeは「T型フォード」だと話す。「今は日本にT型フォードが入っている状態。米国向けの車で、日本で購入できる人は少ないし、日本の田んぼの中は走りづらい、という状況だ。

 だが日本は職人国家。トヨタが日本車を開発して海外に輸出したように、日本の職人は、海外から入ってきた新しいものを、さまざまに改良して世界中に輸出してきた。

 Linden LabはSecond Lifeの技術仕様(API)の一部を公開していて、それを日本人は自由に変えることができる。Wiiや携帯電話などからアクセス可能にすることもできるだろう。日本向けに使いやすいものに改良できるはず」

まずはスキージャンプ台の完成から

 バーチャル東京はまだまだ構築の途上だ。9月下旬には、集客の目玉である「スキージャンプ・ペア」のジャンプ台が完成する予定。仮想美術館「東京ポップミュージアム」もオープンに向けて準備を進めている。

 この2つの施設を中心に街作りを行い、企業の誘致を拡大していく計画だ。「粛々と、一歩一歩進めていきたい」

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