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「JEITAはかたくなで敵対的」──録音録画補償金めぐり権利者団体が公開質問

» 2007年11月09日 21時29分 公開
[ITmedia]

 私的録音録画補償金をめぐり、日本音楽著作権協会(JASRAC)など著作権者側の87団体が11月9日、電子機器メーカーの業界団体・電子情報技術産業協会(JEITA)に対する公開質問状を送った。

 権利者側は地上デジタル放送の録画ルールの緩和には補償金制度が必須だとし、「ダビング10」の合意にも補償金制度の継続は含まれているという立場。だが合意後、JEITAが「DRM(デジタル著作権管理)があれば補償金は不要」という意見を表明していることに不信感を募らせ、公開質問では「コピーワンス緩和の合意を破棄するのか」とただしている。

photo 公開質問状(主要部分)

 公開質問はJEITAの町田勝彦会長(シャープ会長)宛ての7項目で、12月7日までの回答を求めている。JASRACなど28団体で作る「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」が主体となり、賛同者として日本映画俳優協会や義太夫協会、日本フラメンコ協会など実演家らの59団体が賛同して名を連ねた。

 問題は、総務省管轄の情報通信政策部会の検討委員会で話し合われたコピーワンス緩和問題と、文化庁管轄の文化審議会小委員会での私的録音録画制度見直しについて──の2つの議論にまたがる。

photo 質問状を送付する封筒を掲げる実演家著作隣接権センターの椎名氏

 公開質問状の主張はこうだ。

 地デジ放送のコピーワンス緩和をめぐって、JEITAと放送事業者は議論を続けてきたが結論が出なかった。総務省検討委で「消費者と権利者が加わる形で」議論した結果、コピー9回+ムーブ1回に緩和する「ダビング10」の導入で合意した。

 今年8月に公表された第4次中間答申は、ダビング10の導入を促しつつ、コピーワンス緩和の前提として「コンテンツの適切な保護」「クリエイターが適正な対価を得られる環境の実現」について配慮するよう求めた。また文化審議会の小委員会に対し、「クリエイターへの適切な対価を還元するための制度やルールのあり方にたいし検討し、早期に具体策をまとめるよう期待する」とした。

 私的録音録画小委員会は権利者代表やJEITAを交えて議論が進め、10月に中間取りまとめを発表し、パブリックコメントの募集を始めた。

 JEITAはダビング10合意に先立つ5月の小委員会で、「デジタル放送からの録画は、どのようにコンテンツが利用されるか想定が可能なため、回数にかかわらず補償は不要」とする公式見解を表明していた。権利者側はこれを批判したが、その後JEITAからの回答や反論はなく、ダビング10合意後の10月の中間取りまとめの段階でも、JEITA側の発言はなかった。

 パブリックコメントの受け付けが始まった10月16日、JEITAは補償金制度に対する見解を公表。DRMがかかったデジタルコンテンツの複製は、重大な経済的損失を権利者に与えるとは言えず、補償の対象にする必要がないとし、補償金制度について抜本的な見直しを求めた。

 つまり権利者側は、(1)JEITAも参加したダビング10合意には、クリエイター側に録音録画の対価を支払う現状で唯一の仕組みである補償金制度の存続が前提として含まれる、(2)ところがJEITAは今になってDRM付きのデジタルコンテンツに関して補償金制度を否定している──と主張している。

 公開質問では、

(1)JEITAが補償金制度を否定する見解を出したということは、コピーワンス緩和の合意を破棄するものと理解していいのか

(2)補償金制度に対し考えがあるのは分かったが、なぜ今になって主張するのか

(3)「DRMがかかったコンテンツはどのような複製が行われるか予見が可能であるため、経済的不利益は生じない」と主張しているが、予見可能性と経済的不利益がないことはどう結びつくのか

(4)補償金制度に関する限り、JEITAは一貫してかたくなであり、敵対的だ。より良い関係を実現するためにともに手を携えることはできないのか

 ──などとただした。質問状は封筒に入れてJEITAに郵送で送付した。

「だめですね」

photo 左からJASRACの菅沼端夫氏、椎名氏、日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎氏、日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏

 9日に都内で開かれた会見で、質問状を読み上げた椎名和夫氏(実演家著作隣接権センター)は「敵対的」の箇所で語気を強めた。JEITAに対し「端的にどう思うか」との質問に対し、椎名氏は「だめですね」と答え、「質問状にも満足する回答が返ってくるとは思えない自分が悲しいが……」と強い不信感をにじませた。

 コピーワンス緩和案としてJEITAはEPN(Encryption Plus Non-assertion)の導入を主張してきたが、権利者側は「EPNは実質的にコピーフリーであり、私的複製の範囲を超える」として反対。最終的にダビング10で合意したが、「ひざ詰めで『じゃあ何枚までOKなのか』となった時に、JEITAは(EPNを主張して)折れてこない。消費者側と具体的な枚数まで出して話していたのに。それで今になって補償金制度はいらないと。僕らから見ると何を考えているのか分からないんですよ」(椎名氏)

 JASRACの菅沼端夫氏は、1992年に補償金制度が導入された際の経緯として「コピーできる機械を売ってもうけているメーカーには社会的責任があるのでは、という指摘を当時の経営者が理解して実現した」と説明。その後さらにデジタル化が進んで複製も容易になり、「そうした機器を販売して利益を得ているのだから、メーカーの社会的責任は大きくなっているのでは」と指摘した。

 また欧州で日本のメーカーが「嫌々かもしれないが」補償金を払っており、「それは商売の上で必要だからだろう。なぜ母国の日本だけで制度がいらないというのか。不可解だ」とした。

 椎名氏は「JEITAは本当にメーカーの利益を代表しているのか。言葉は悪いが、意地になっているところがあるのでは」と話し、今後はメーカーの経営者らに直接働きかけをしていく考えも明らかにした。

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