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AMDがSpiderで訴えたいこととは――存在感増すGPUを大幅強化(1/3 ページ)

» 2008年01月25日 11時00分 公開
[笠原一輝,ITmedia]

 2007年11月末、AMDは同社の新しいデスクトップPC向けプラットフォーム“Spider”を発表、出荷開始した。SpiderプラットフォームはCPUのPhenomプロセッサ、チップセットのAMD790FX、GPUのRadeon HD 3800シリーズという3つの要素で構成されており、今後AMDが戦略製品としてエンドユーザーに提供していくものだ。

 今回は、日本AMD マーケティング本部 PCプラットフォーム・プロダクトマーケティングマネージャー 土居憲太郎氏と同シニアスペシャリスト GPU/チップセット担当 森本竜英氏のお2人に、AMDがSpiderプラットフォームを導入した背景や、その特徴などを伺ってきた。

Fusionプロセッサを見据えたAMDのプラットフォーム戦略

 ユーザーの中にはAMDが突然“Spider”なるブランドを持ちだしてアピールし始めたことに戸惑いを感じている方も少なくないのではないだろうか。確かに、これまでAMDはチップセットなどはサードパーティーに任せるという戦略をとってきたため、プラットフォームに名前をつけてユーザーにアピールするということはしてこなかった。

土居憲太郎氏 日本AMD マーケティング本部 PCプラットフォーム・プロダクトマーケティングマネージャー 土居 憲太郎氏

 だが、AMDは大胆に戦略を転換し、プラットフォームとしてのトータルシステムの魅力をアピールする方向に舵を切った。その直接的な理由は、2006年に行われたATI Technologiesの買収・合併による新生AMDがスタートしたことにある。「AMDはマイクロプロセッサだけでなく、チップセット、GPUなども扱う総合メーカーへと変化しました。そこで新しい取り組みとして、それらを1つのプラットフォームとして発表することになりました」(土居氏)それまでマイクロプロセッサ事業のみだったAMDが、GPU、チップセット、そして民生機向けのメディアコントローラなどの新しい事業を手に入れたことで、そうしたものを有機的に組み合わせることで顧客に対してより大きなメリットを提供していきたいと考えているのだ。

 AMDがそうした戦略にでるのは、ATIとの合併だけが理由ではない。そのヒントは、“なぜAMDはATIを合併する必要があったのか”という質問の答えに隠されている。それは、これからのPC向けのマイクロプロセッサは、いわゆる一般用途のx86アーキテクチャの機能に、GPUのようなベクター演算のための機能を追加したような、Fusion(フュージョン、融合)型のマイクロプロセッサが主流になるとみられているからだ。

 すでにGPUの重要度は過去に比べると大きく増している。Windows Vistaの画面描画がGPUの3D描画機能を利用して行われているし、マイクロソフトがWindows Vistaに搭載している新しいAPIを利用するとさまざまなアプリケーションから3Dで利用できるようになる可能性がある。そこで、現在のCPUだけでなくGPUの機能まで含めて1つのチップで実現しようというのがAMDのFusion構想だ。こうした動向はAMDに限らず、インテルも同じようなマイクロプロセッサを計画している。

 そうしたFusion型マイクロプロセッサでは、1つのマイクロプロセッサの中にx86コア、GPUコア、チップセット(ノースブリッジ)の機能を統合することになる。つまり、現在AMDがSpiderプラットフォームとしてアピールしている3つのコンポーネントは、将来1つのコンポーネントになってしまうのだ。このことを見据えれば、AMDがなぜプラットフォームをアピールし始めたかが理解できるのではないだろうか。

存在感増すGPU、3DだけでなくHDコンテンツの活用も

 PCにおけるGPUの存在感は年々増すばかりだ。その理由の1つはすでに述べたように、Windows VistaにGPUを利用するいくつかの機能が搭載されていることだ。その代表としては、Windows Aeroと呼ばれる3D描画を利用したさまざまな効果をサポートする新しいユーザーインタフェースがあげられる。

 さらに、そうしたPC業界内部の理由以外にも、民生機も含めたHD(High Definition)への注目度が上がってきているということもある。例えば、デジタル放送対応の液晶テレビに代表されるような薄型・大画面のテレビの普及率は上がり続ける一方だ。さらに、プレイステーション 3やXbox 360といったHDに対応したゲームコンソール、さらにはBlu-rayやHD DVDなどのHDをサポートした次世代メディアの普及などが進みつつある。

 そうした世の中の流れにPCとて無縁ではいられない。国産PCメーカーの多くは、デジタル放送が受信できるPCを発売しているし、すでにBlu-rayやHD DVDのドライブも販売されており、HDコンテンツをPCで再生することはもう珍しいことではなくなりつつある。AMDの土居氏はそれに加えて、PCでHDコンテンツを編集するシーンも増えつつあると指摘する。「DVカメラでHDをサポートするものはどんどん増えています。我々の予想では2008年のどこかの段階で100万台を突破すると考えています。しかも、記録媒体も従来のテープに代わってHDDやSDカードなどが増えています。これらはPCとの親和性が高く、今後はPCにこれらの機器を接続して編集する普通のユーザーが増えていくと考えています」(土居氏)確かに家電量販店に行けば、多数のHDに対応したDVカメラが販売されている。団塊ジュニア世代による、プチベビーブームのような状況が起こりつつあり(実際2006年の出生率は久々に前年比プラスに転じた)、子供を撮影する機器としてHDのDVカメラはすごい勢いで普及しつつあるのが現状だ。

 だが、これまでのPCがHDの編集環境として十分かと言えば、実はそうではなかった。その最大の理由は、HD対応DVカメラが採用しているMPEG-4 AVC(H.264)と呼ばれる圧縮方式が、従来のマイクロプロセッサでリアルタイム再生するにはかなり重たい処理だからだ。「シングルコアのSempronなどを搭載したPCで再生するとコマ落ちが発生してしまう」(土居氏)との言葉の通りで、これはAMDのマイクロプロセッサの問題というより、インテルも含めたx86系のマイクロプロセッサ共通の問題となっていた。

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