想定の10倍。圧倒的なトラフィックが押し寄せた。「ニコニコ動画」が、ユーザー投稿作品の商用化をめぐって揺れていたころ。ニコニコを避けたユーザーのアクセスが、アッカ・ネットワークスの投稿動画サイト「zoome」に殺到した。
「やっとzoomeを知ってもらえた」。スタッフはそんな喜びをかみしめながら、サーバの増強や要望の反映に追われた。「対応が早い」「問い合わせに丁寧な返事が来た」「中の人乙」――迅速で誠実な対応に、ユーザーから高い評価が寄せられる。
zoomeは「ニコニコ動画 β版」が公開された約2週間後、昨年1月30日にオープンした動画投稿サイト。アッカとして初のコンシューマー向け事業だ。
動画投稿サイトはすでに過当競争状態だったが、SNS機能を付け、ユーザー同士のコミュニケーションで盛り上げようと設計した。12月には「エンジニアの技術的探求心から」(同社映像コミュニケーション事業部メディアグループエキスパートの阿部聡也さん)H.264に対応し、高画質な動画を閲覧できるようにした。
だが使い勝手が悪かったり、キラーコンテンツがないといったことから、なかなか盛り上がらない。「zoomeをもっと知ってもらい、投稿を盛り上げたい」――そう考えて12月に始めたのが、クリプトン・フューチャー・メディア公認の「初音ミク」「鏡音リン・レン」を使った動画作品募集企画だった。
きっかけは11月末ごろ。「素人動画としては考えられないくらい高いクオリティーの初音ミク作品がzoomeに投稿されている」と気づき、クリプトンに「投稿された動画を公認してもらえないか」と持ちかけた。クリプトンもちょうど、公認のミク/リン・レンの静止画や楽曲を投稿する「ピアプロ」を企画していたころ。「公認動画の投稿にはzoomeを使う」という話が、すぐにまとまった。
この企画の発表をきっかけにzoomeの知名度は向上。そして12月半ば、想定外の事態が起きる。「ニコニコ動画」に投稿され、人気となった初音ミク楽曲の着うた配信をめぐる手違いで騒動が起き、ミク作品は、ニコニコ動画から“避難”するように、zoome内のクリプトン公認企画のコミュニティーに集まり始めた。
zoome全体のアクセスも急増。当時、目標としていたページビュー(PV)は1日当たり15〜20万だったが、最大で180万PVを記録した。
「やっとzoomeという名前を知ってもらえてうれしかった」と阿部さんは振り返る。「前から(2ちゃんねるの)YouTube板で単独スレが立つくらいでないと動画サービスとして一人前ではない」と考えていたが、めでたくスレも立った。
「使い勝手を改善して」「こんな機能を付けてほしい」――急増したユーザーから、機能改善掲示板などを通じて次々に要望が寄せられる。zoomeチームの5人のスタッフは次々に要望に応え、1日に8種類もの機能改善・新機能追加を発表したこともあった。
スタッフはコミュニティーサービスを運営してきた経験もあり、ユーザーの声に耳を傾け、迅速に対応することが何よりも大事と知っていた。「設計側はサービスに慣れてしまっていて、使いにくさを自覚できない。ユーザーの要望は貴重」
サービスだけでなく、規約にもユーザーの意見を取り入れた。ユーザーからの指摘を受け、投稿作品の権利は基本的にユーザーが持つことを明記。この規約変更が、初音ミク作品の権利をめぐる騒動で困っていた“ミク作家”を引き寄せる一因にもなった。
zoomeはもともと、知り合いや家族で、SNSで交流しながら動画をやりとりしてほしいと考えて設計した。日記代わりの動画投稿を想定しており、一般にも受け入れられる“作品”が投稿される可能性は低いと考えていた。
だがニコニコ動画で育った初音ミク作家の流入が想定をくつがえした。初音ミク・鏡音リン・レン作品の投稿企画には、そのまま商用化できそうなクオリティの高い作品が寄せられる。「zoome発のコンテンツを商用化する、といったこともやっていきたい」と阿部さんは話す。
zoomeのクリプトン公認コミュニティーには、1月25日までに234の動画が投稿されている。質の高い作品は、初音ミクの声を担当する声優の藤田咲さんと鏡音リン・レンの声優の下田麻美さんが出演する動画番組で紹介中だ。「番組は、一方的に動画を流すのではなく、ユーザーが“参加している”感じを出したい」と試行錯誤する。
作品の商用化も検討する。本格的なビジネス展開というよりは、ユーザーの才能やzoomeという場のアピールのためといいい、「あくまで投稿ユーザーの許諾を得た上で出していきたい」としている。
zoomeの運営は広告収入で行う計画。バナー広告も入れているが、まだ利益は出せていない。まずは認知度を高めてアクセスを増やすことが先決という。1日当たりのPVは現在70万程度に落ち着いており、“ニコニコ騒動”で流入したユーザーのつなぎ止めも課題だ。
「今はまだ、ユーザーのリクエストに応えて他サイトのいいところを取り入れている段階。zoomeにしかないコンテンツや仕組みを導入し、独自の魅力を作っていきたい」
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