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「カピバラさん」ヒットに見る“女だけチーム”の底力(1/2 ページ)

» 2008年03月07日 13時21分 公開
[西川留美,ITmedia]
画像 カピバラさんのぬいぐるみ

 のんびりマイペースなゆるキャラ「カピバラさん」。カピバラという動物をモチーフにしたバンプレストのオリジナルキャラクターで、さまざまな企業からライセンス許諾のオファーが殺到している人気者だ。

 開発したのは女性だけの「トライチーム」。といってもここ2〜3年ブームになっている「ダイバーシティマネジメント」(女性や外国人などを多様な人材を生かす経営手法)を狙った安易な部署ではない。設立は02年と、6年前にさかのぼる。

 「ヒットが生まれなければ事務所をたたまなければいけない。そうなったら、アルバイトの子たちはどうなる」。当初は市場調査部隊だったトライチーム。売上目標もなかったが、目に見える成果が必要だった。

「女子校みたいな」チーム

 東京・銀座の目抜き通りである中央通の雑居ビルに、トライチームはある。バンダイナムコホールディングスのグループ会社・バンプレストが02年4月に作った組織だ。

 ヒットを出したこのチーム、さぞやクリエイティブな雰囲気をかもし出しているのだろう……と足を踏み入れると、こぢんまりとしたアットホームさが漂う。

 「いろんな人から漫画が回ってきます。女子校みたいなノリですね」と、同社マーケティングディビジョントライチームマネジャーの遠藤日奈子さんは笑う。

 先代社長・伍賀槌太氏の肝いりで作られた部署。当時本社は浅草にあったのだが、このチームは誕生時からずっと銀座に事務所を構えている。当初は、女性向け商品の市場調査をするための組織だった。

 同社は男児玩具など男性市場には強かったが、女性向け商品は伸び悩んでいた。そのため女性だけのチームを作り、マーケティングを行おうと考えた。メンバー11人のうち社員は2人。残りは9人はアルバイトだ。

 遠藤さんは立ち上げ期から支えている社員の1人。「市場調査をするための部署でしたから、みんなで街に出て『かわいいもの』を集めてくる日々でした」と振り返る。

カワイイを共有できる

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 女性ばかりのメリットは「カワイイ」が共有できること。わざわざ調査会社を使って女性を集めた座談会を開かなくても、社内会議で多数決を取ればどの商品が売れるかある程度見えてくるという。

 「男性を前にしたプレゼンだと『このキャラのこういうところが女性にカワイイと思われる』と説明しなくてはならないが、女性同士なら『カワイイ』自体は直感的に分かるため、すぐに『どれくらいカワイイか』の議論に入れる」(遠藤さん)

 そういった議論を続けるうち、トライチームは女児向け商品の企画チームに変化していった。トライチーム内で企画した商品やキャラクターを事業部に提案する――という流れだ。

 だが実績のないトライチームの提案はなかなか通らず、他部署の有力キャラ商品が優先して作られる状況が続く。社内的に見ればトライチームはあくまでも「調査部隊」。売上目標もなかった。

 だが、遠藤さんは焦っていた。ヒットが生まれなければ、この事務所をたたまなければならない。そうなったらここにいるアルバイトの子たちはどうなる――

 トライチームのアルバイトは、かなり厳しく選考される。2次面接まであり、自分でキャラと商品企画を作ってプレゼンする――というハードルの高い課題もある。それでも、美術を勉強している人やものづくりに携わりたい人、デザインをやりたい人などがトライチームの門を叩いていた。

 前途ある彼らを育てなければ。遠藤さんはプレッシャーと戦っていた。

カピバラさんは落書きだった

 社内の各事業部に合わせた企画を立てて、事業部ごとに持ち込んで議論しいくのは大変な手間がかかる。「いいキャラクターを1つ作れば、アミューズメントや物販の部署を横断して提案できるのでは」。遠藤さんは考え始めた。

 02年の秋ごろからさまざまなキャラを作り、物販や景品など各事業部に売り込みにいった。本格的な商品化の前の段階として、クレーンゲームのプライズ商品として出し、客の反応を見ることにした。

 プライズ化候補として、チーム内で約100種のキャラを提案。ネットでアンケートを取ったり、原宿・竹下通り行き交う女の子たちを呼び止め、「どのキャラクターがカワイイですか」と直接聞いて回った。その結果から10程度にしぼり、試作する。うち2、3を、クレーンゲーム用に商品化した。

 1つだけ、他とは別の動きをしたキャラがいた。客や社員から「これが良い」「早くほしい」など発売前から多くの問い合わせが寄せられる。それが「カピバラさん」だった。

 カピバラさんは、メンバーがキャラをプレゼンする際に、プレゼン用紙の端っこにあったイラストが元になっている。うろ覚えで描いたため、実物のカピバラとはあまり似ていないのだが、その落書きを見つけたスタッフの間で「これがカワイイ」と評判になり、偶然生まれたキャラクターだった。

 カワイイという共通言語が見いだした発見。この女子高生的なノリが、後の大ヒットにつながるとはそのときはまだだれも気づいていなかった。

書籍化まで2年以上

 商品化への道のりは長かった。

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