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初音ミク作品の“出口”は 「表現」と「ビジネス」の狭間で(2/2 ページ)

» 2008年03月18日 16時13分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 MIDIフォーラムは、ユーザーがMIDIデータを共有できるサービス。一般のDTMユーザーが、当時のヒット曲などJASRAC管理楽曲を打ち込み、公開していた。

 JASRACは01年、個人の非営利利用でも楽曲のネット配信には著作権使用料支払いが必要とし、料金を10曲当たり年額1万円か1曲あたり同1200円と設定した。「支払えるユーザーはほとんどおらず、MIDIフォーラムは解散した。そんな悲しい思いは、もうしたくない」(丸橋さん)

サイト側が使用料を払う仕組みが一般的だが

 インターネットに移転したMIDIフォーラム(07年に終了)では、ニフティやスポンサー企業がユーザーの代わりに著作権料を支払うという仕組みで運営してきた(関連記事:@nifty「MIDIフォーラム」で無料楽曲利用が可能に JASRACが正式許諾:2001年掲載)。YouTubeやニコニコ動画も同様に、著作権料は投稿サイトが肩代わりして支払う――という方向で議論を進めている。

画像 楽曲の有料配信も行っているMySoundの著作権に関する表記

 アマチュアアーティストが楽曲を投稿・公開できるヤマハの「MySound」(旧プレイヤーズ王国を統合)では、ヤマハがJASRACに著作権料を支払っており、JASRAC管理楽曲の演奏も無料で公開できる。

 ニフティの丸橋さんは「管理サイト側が責任を持つという状況は、中途半端で悲しいソリューションではないかと思う」と話す。「ありものの曲を、アレンジして発表した時、簡単に安く著作権処理できるような仕組み作りが必要だろう」(丸橋さん)

画像 森社長

 シンクの森祐治社長は、米国著作権法で規定されているような「フェアユース」の概念がない日本の著作権制度下で、自由な創作やビジネスモデルへのチャレンジが萎縮させられていると指摘する。「欧米では果敢なビジネスモデルが試されているが、日本の著作権法はグレーゾーンがたっぷりある。コンプラインアンスの意識が過剰に高まり、萎縮効果が働いている」(森社長)

 ヤマハの戸叶さんも、フェアユースのような仕組みの導入が必要という意見だ。「発表して楽しむだけのユーザーが安心して楽しめる仕組みがあって初めて、受動的なユーザーが活発になる」

クリエイターが報われる仕組み作りを

 弁護士の北村さんは「テレビなど従来型のコンテンツビジネスは、メディア間でお金が動き、クリエイターがこれまで十分に報われていなかった」と指摘。クリプトンの伊藤社長も「これまでのコンテンツビジネスは、大きな資本を中心に回るトップダウン型だったが、ユーザー同士のつながりがうむボトムアップ型に変わってきている」と話す。

 ニコニコ動画やピアプロ、MySoundのような投稿サイトには、無名の一般ユーザーが、商用にも耐えるようなハイクオリティーのコンテンツを投稿している。「MySoundに投稿する人はお金がもらえるわけでもなく、報酬は名誉しかない」(ヤマハの戸叶さん)。それでも投稿は止まらない。

画像 自らも初音ミクの大ファンで「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」が好きだという剣持さん。「みくみく作者に、何とかして感謝を伝えたい」

 初音ミクで楽曲制作するクリエイターも「お金は求めていないが、名誉を求めている。名誉にお金が付いてくることには拒絶しない」(ヤマハの剣持さん)という。「作者に感謝の気持ちを贈るために、名誉や“ありがとう”の気持ちを数値化できないだろうか」(剣持さん)

 弁護士の小倉秀夫さんは、作者に還元する方法は2つあると話す。(1)投稿作品に人気が出れば、直接お金がもらえるような「投げ銭」的な仕組み、(2)CGMサイトをPR用のショーウィンドウとして利用し、既存メディアに見いだされて仕事を得る仕組み――だ。「前者ができればそれに超したことはない。一部のシェアウェアのように、使って気に入ればお金がもらえる、ということが音楽で行われるだろうか」

 シンクの森社長は「音楽や映像といった手のかかるコンテンツは、発表の場とコラボレーションの場が分離するだろう。コラボレーションの場はお金を取れる場にならないのではないか」と指摘。(2)のモデルの場合は、ネットでコラボレーションし、テレビなど既存メディアで収益を得る仕組みになるだろうと見通す。NTTぷららでIPTVサービス「ひかりTV」を担当する伊藤康之さんは、ネットで発掘された才能をひかりTVなどといったメディアに引き上げ、収益につなげていきたいと話し、メディア側として(2)を支えていきたいとした。

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