米スタンフォード大学は並列コンピューティングの世界を探究する方針だ。
同大学は5月2日、世界の大手IT企業数社とともに並列コンピューティングの研究所「Pervasive Parallelism Lab」の設立について発表する。この研究所の目標は、市場に続々と投入されつつあるマルチコアプロセッサを活用できるアプリケーションを開発するための新しい手法を確立すること。
この研究所には向こう3年間で600万ドルの予算が充てられる見通しという。並列コンピューティングでは複数のプロセッシングコアを活用できるようデータが小さなパーツに分解されるが、この研究所はそうした並列処理を活用できるアプリケーションの開発を容易にするための新しいプログラミング言語の開発手法の考案だけでなく、そうしたマルチコアプロセッサを収容するためのハードウェアの開発にも当たることになる。
この新しい研究所を支援する企業各社が、並列処理対応のソフトウェアを開発することによって得るメリットは大きい。既に毎年のように市場にマルチコアプロセッサを投入しているIntel、AMD、NVIDIAの3社は、この研究所の支援に合意している。
また、IBM、HP、Sun Microsystemsもこの研究所への資金提供を決定済みだ。
スタンフォード大学の今回の発表に先立ち、3月にはIntelとMicrosoftが並列プログラミングのための新しいアプリケーションと容易な手法を開発するための研究所の設立に共同で2000万ドル出資する計画を発表している。こうした大学と共同での並列コンピューティングの研究センター(UPCRC)は現在、カリフォルニア大学バークリー校とイリノイ大学アバーナシャンペイン校にも設立されている。
IntelやAMDが開発しているマルチコアx86プロセッサをフルに活用できるアプリケーションの開発に並列コンピューティングをどのように役立てられるかは、目下、IT業界全体が大いに注目しているポイントだ。
NVIDIAが現在、複数のコアを搭載し、グラフィックスプロセッサの能力を最大限に引き出すために並列で動作するアプリケーションを必要とするGPUを開発中だ。
IntelやAMD、NVIDIAなどのプロセッサメーカーはプロセッサの新版をリリースするごとにクロック速度を高める代わりに、マルチコア設計によって性能強化を果たす方針に切り替えている。そこで問題なのが、開発者をシリアルプログラミングから並列プログラミングに移行させることだ。並列プログラミングはシリアルプログラミングよりもはるかに難しく、今のところ専門知識を備えた人材が少ないのが現状だ。
「マルチコアプロセッサは非常に重要だが、今はまだ十分に活用されていないマルチコアプロセッサが多過ぎる。必要なのは、マルチコアプロセッサが提供する性能をフルに活用できるソフトウェアを開発できる人材だ」とプロセッサ業界に詳しいTechnology Business Researchのアナリスト、ジョン・スプーナー氏は指摘している。
そして、そうした新しいプログラミング言語を開発するための教育を受けられるのがスタンフォード大学やカリフォルニア大学というわけだ。
「並列プログラミングは恐らく今日のコンピュータ科学にとって最大の課題であり、コンピュータ処理能力の向上を継続させる上で最大の障害でもある。この40年間、コンピュータ業界やその関連の業界が成長してこられたのは、コンピュータの処理能力が継続的に向上してきたおかげだ」とスタンフォード大学のコンピュータ科学学部長のビル・ダリー氏は声明で語っている。
Intelなどの企業では既に並列の世界に移行する準備が整っているが、一般の企業でも従来のやり方から離れる準備ができているかどうかは定かでない。多くの企業はシリアルプログラミングで動作するシステムやアプリケーションを所有しているからだ。一部の観測筋からは、「そうした企業は基幹業務アプリケーションが古くなって使えなくなるような移行を望まないのではないか」との指摘が上がっている。
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