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青少年ネット規制法案、大幅修正か 連休明けにも新案

» 2008年05月02日 15時26分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 与野党が国会提出を目指して準備している、青少年に有害な内容のサイトの閲覧を規制する法案の現状について5月1日、マイクロソフトの楠正憲CTO補佐が説明した。楠さんによると現在、与野党でさまざまな法案が議論されており、連休明けの7日にも新たな案が提出される見通しだ。

 MIAU(Movements for Internet Active Users:インターネット先進ユーザーの会)が開いたシンポジウムに楠さんが出席し、法案の今後の見通しや、ネットが絡んだ自殺問題について意見を述べた。

 シンポジウムには楠さんのほか、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の久保田裕専務理事、AV機器評論家の小寺信良さん、東京大学大学院の中川譲さん、CPSR/Japan(社会的責任を考えるコンピュータ専門家の会日本支部)の崎山伸夫さんも登壇した。

 MIAUやマイクロソフトなどは、連休明けの新案を見た上で対策を練る方針。小寺さんによると新案では、「PCメーカーやフィルタリング会社の協力義務は外れそう」という。

高市案は修正されている

 「これはひどい法案だと主張したら『古い案について話している』とご批判いただいた」――楠さんは4月23日にヤフーや全国高校PTA連合会会長などと共同で開いた会見について、さまざまな批判を受けたと切り出した。

画像 楠さん

 与野党がまとめている法案や意見の中で、ネット業界などが最も問題視しているのは、自民党の高市早苗議員が中心となって準備している「高市案」。国の権限や罰則を明確化した規制色の強い内容だ。

 23日の会見では初期の高市案の内容が批判されたが、楠さんによると、高市案は現在、さまざまな意見を受けて修正されているという。

 例えば当初の案には、「内閣府内の委員会で有害情報の基準を策定する」とあり、これが「国による情報の検閲」と批判を受けた。現在は「有害情報の基準は民間が作り、適正かどうかを審議会で検討する」という内容に変わっているという。

 その一方で「ISPを含め、立ち入り検査の条項が入るなど、全般的に幅広く分量の多い内容になっている」と楠さんは説明。国の役割を強化するような修正もなされているようだ。

 高市案を自民党案として国会提出するのは「かなり難しい状況」と楠さんは話す。自民党の総務部会、経済産業部会も、法案の形ではないものの、各業界の意見・要望をまとめた案を検討中。それぞれの案を踏まえ、内閣部会が連休明けにも案をまとめる見通しという。

 民主党も法案を準備しており、連休明けに骨子が固まりそうという。「状況は思ったより進んでいない。時間切れになる可能性もある」

防げなかった自殺も、ネットのおかげで防げている

 硫化水素を使った自殺の方法がネット上に書き込まれ、それを見た自殺が増えている、と報じられている。その一方で、ネットのおかげで、これまで防げなかった自殺が防止されていると楠さんは指摘する。

 2005年、総務省と警察庁、ISP関連の団体が自殺予告の発信者情報開示ガイドラインを策定。自殺予告をした人を発信者情報から特定し、警察が止めに入る――ということが可能になった。「自殺を図ろうとした人が年間数十件保護されているという現実がある」

 ネットの普及前後で、未成年自殺は増えていないと楠さんは言う。「未成年の自殺率は、1950年代は10%だったが、この10年は2%程度で推移している。少年自殺は決して増えてないし、ネットはそれを助長しているとは思わない」

 未成年をネット犯罪などから守るためには、ISPなどへの取り締まりを行うのではなく「責任制限」を考えるべきと主張する。「プロバイダ責任制限法のように、例えば、学校裏サイトのパスワードを、ISP側が善意で教師や親に教えた際、通信の秘密の侵害で訴えられることなく、法的に守られる――といった規定を定めるところから始まるべき」

後で「業界に妥協したから問題になった」と言われない法制度を

 「業界はこれまで、対策をしてこなかったわけではない」――例えばWindows Vistaには、標準でフィルタリングツールが組み込まれている。ネットサービスプロバイダーも、時には警察と連携しながら、違法行為につながる情報の削除や監視に務めてきた。ネットがここまで普及したのはそういった努力のおかげで違法行為が抑止されてきた結果だと、楠さんは話す。

 「だが、犯罪でネットが使われているのは確か。ネットの普及率が高まり、従来ならネットが介在しなかった犯罪にも、ネットが使われることが増えているだろう。ペシミスティックに言えば、1000万、2000万人が使ってるサービスで犯罪がなくなることはない。どんな法律を作ったとしても、有意に犯罪が減るかどうかは分からない」

 今回、青少年ネット規制法を制定する流れが止まらないのであれば、むしろこの機会に、きちんとした法律や制度を作っておく必要があると説く。

 「業界は、ちょっとでも緩い規制にしようと条件闘争しがちがだが、『あの時、業界に妥協したからこんなのになった』と言われないよう、きちんとした建て付けにし、後から効果を検証できるものにしなくてはならない」

 さらに、法律や組織はどうしても自己肥大化していくと指摘。「あいまいな形で組織や権限が拡大しない、めりはりの効いた法律ができるよう、意見を述べていく」と話した。

高校生「裏サイトよりブログの言い合い」

 シンポジウム会場からは、現役男子高校生も発言。実体験を交えながら感想を述べた。

 「高市案に挙がっていた有害情報の定義のうち僕が困るのは、性に関する情報と、いじめに関する情報。性に対する情報を規制されると多くの高校生は一網打尽で、普段のネット生活が根本から変わらざるを得ない」――冗談めかした話しぶりに会場は爆笑。「でもこれは、仕方ない部分がある。教室内でエロ本は回るが、コンビニでは18歳以上の棚に置いてある」と続けた。

 「もっと困るのは、いじめに関する情報、学校裏サイトが問題になっているが、実感としては、裏サイトよりも個人ブログで問題が起きる。僕も、自分のブログで大きな論争が起き、ののしり合いをした相手と、リアルでも1週間ぐらい口をきかなかったことがある。論争ぐらいなら有意義だが、(論争相手の)裸の画像が上げられたりするとまずいと思う。いじめの線引きにも関わる問題だが」

MIAUは「ネットの教科書」制作中

 MIAU発起人でもある小寺さんは、国内シェア90%というフィルタリングソフト「iフィルター」を紹介。簡単に使えるようかなり工夫されているものの、親のネットリテラシーが必須で、小寺さんでも完璧に使いこなせる自信はないと話す。

画像 小寺さん

 子どもを持つ親として「問題は、親が子どものネットサーフィンに対してどれぐらい介入・干渉していいものか悩みどころ」と打ち明ける。「僕らも思春期のころ、広辞苑でエロい単語引いたよね? その単語の上に親が『18歳になったら取って良し』と書いた付せんを貼っていたらどうする? 俺は家を出るね」(笑)

 楠さんも「『違法・有害コンテンツ』とまとめて言うが、違法と有害は全く異なる」と指摘する。「有害は幅広く、多様な価値観を包含していて、親の教育方針によって異なる。個人的には、中学生は“悪い本”を読んで『死にたい』と思うことがなくてはいけない、と思うが、『そんなこと考えるな』という親もいる。青少年の健全な育成とは何かは、非常に難しい問題」(楠さん)

 MIAUは、親子向けの「インターネットの教科書」を作成する非公式プロジェクトを3月末に立ち上げた。小学生、中学生、高校生版と、保護者版をそれぞれ、社会学者や心理学者のアドバイスも取り入れて作成し、教育委員会やPTAに採用を働きかけていく方針だ。

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