日本の漫画を米国で販売する際には、独特の苦労や工夫が必要になる。暴力や性表現に対する規制が厳しいため、漫画「NANA」は16歳以上向け。18禁の巻もあるという。大きなサイズの本が好まれるため、日本よりも一回り大きい単行本を作るといった工夫もしている。
日本の漫画やアニメDVDなどを米国や欧州で販売しているVIZ Media(カリフォルニア州サンフランシスコ)に、人気作品や販売の実態、苦労を聞いた。
VIZ Mediaは、1986年に小学館の子会社として設立。現在は小学館と小学館プロダクション、集英社が出資している。
米国版「少年ジャンプ」や、日本の少女漫画を掲載するオリジナル雑誌「Shojo Beat」などを発行しているほか、「ドラゴンボール」「NARUTO」「NANA」といった人気漫画の単行本も販売。日本アニメをDVD化したり現地テレビ局にも販売しており、漫画のせりふや効果音を英訳したり、アニメに字幕を付けるといった作業も行っている。
日本の漫画やアニメを米国で販売する際に苦労するのは、暴力や性表現に対する規制が厳しい米国の基準に合わせること。対象年齢を制限して販売している漫画も多い。
例えば「NANA」の単行本は基本は16歳以上向け。収録されている内容に応じて巻ごとに対象年齢が異なり、マリファナを吸うシーンが出てくる巻は18歳以上向けだ。以前は16歳以上向けのShojo Beatに連載していたが、今は掲載を止めてしまった。
アニメの放送時間の制約もある。NARUTOのアニメは血が飛び散るといった暴力シーンがあるためゴールデンタイムには放送できず、放送時間は午後10時半からだ。
VIZ Mediaとは別の会社がアニメ「ONE PIECE」をゴールデンタイムに放送するため、アニメに登場する拳銃をおもちゃのハンマーに、たばこをキャンディーに編集したところ、ファンから反感を買ったこともあったという。「日本の漫画やアニメは、世界中の人が読者。日本でも、世界を見すえた作品作りをしてほしい」
同社の北米での年間出版点数は約130タイトル・400冊で、シリーズものなら2〜3カ月に1巻のペースで発売している。漫画単行本の価格は7ドル99セント〜12ドル99セントと日本よりも高いが、他社はさらに高価(9ドル95セント〜14ドル95セント)という。
今、米国で最も人気がある日本の漫画は「NARUTO」だ。米国版の第1巻は昨年までに累計約29万4000冊を売り上げた。昨年の漫画単行本(アメリカンコミックや日本の漫画、韓国の漫画などを含む)の販売部数トップ20のうち11作をNARUTOが占める。
「過去にはドラゴンボールも人気が高かった。単純明快、バトルものが受ける」と同社の漢城まどかシニアバイスプレジデント。少年漫画なら「BLEACH」や「DEATH NOTE」、少女漫画なら「フルーツバスケット」の人気も高いという。
米国の漫画単行本市場は右肩上がりだ。昨年の売り上げは約390億円で、そのうち日本の漫画が約210億円〜260億円を占めた。
「日本では2006年に漫画の売り上げが5000億円を割ったと話題になった。米国は日本に比べるとまだまだだが、日本の出版社は伸びている市場に資本を投下しようと考えている」
漫画の単行本の売れ行きが良いのは東西海岸地域という。「インターナショナルな文化の受け入れは、東西海岸から。最もアメリカらしいと言われるアメリカ中央の地域まで浸透した作品は、まだ『ポケットモンスター』だけ」
米国人は分厚く大きなサイズの本を好むため、単行本は日本のものより一回り大きなサイズで売り出すなどといった工夫をしている。
米国の書籍は左とじだが、同社の漫画本は日本と同じ右とじで販売。単行本の最後のページには右とじの説明や、右のコマから左のコマに読み進めるといった読み方の説明を付けるなど、日本人にとっては当たり前な“漫画の作法”の普及にも気をかける。
売り場整備も課題だ。現在、米国の本屋の漫画コーナーには、本がタイトルのアルファベット順に並んでいるため、少年漫画や少女漫画などジャンルごとに売ってもらえるよう指導していくという。
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