ITmedia NEWS >

電子マネー「Edy」はどこへ行くのか――ビットワレット社長・眞鍋マリオ氏インタビュー神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年07月28日 11時23分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 FeliCaが生まれて間もない2001年。非接触ICを使った新しい決済サービスとして産声を上げたのが、ビットワレットの電子マネー「Edy」だ。かざすだけで使える利便性の高さと、プリペイド(前払い)方式で誰でも使えるハードルの低さ。さらに全日本空輸(ANA)のマイレージプログラムとの連携などが評価され、Edyはユーザーとファンを増やしていった。2004年のおサイフケータイ開始時に、多くの人が初めて使ったサービスもEdyだった。

 そして2008年。FeliCaを使った電子マネーは、プリペイドとポストペイの両方で様々な方式が登場。「Suica電子マネー」や「nanaco」など、利用者数規模や利用率でEdyに比肩する方式も台頭してきている。

 電子マネーの草分けであるEdyは、今後どこに向かうのか? 本稿ではビットワレット社長の眞鍋マリオ氏のインタビューをお届けする。

『n×n』でEdyを拡大していく

ビットワレット社長の眞鍋マリオ氏

――Edyの開始から7年たち、電子マネーの認知度はずいぶん高くなってきました。Edyにとって、2008年はどのような位置づけの年になっているのでしょうか。

眞鍋 2007年は電子マネーの普及が本格化した年で、(電子マネーサービスを提供する)プレーヤーがほぼ出そろいました。一方で、利用促進という面では、まだこれからだと認識していまして、この傾向は2008年も続いてきています。

 我々Edyの事業で見ますと、利用できる店舗である『場の確保』と、カードやおサイフケータイによる『ユーザーの増加』は一定の規模が確保できたと考えています。平たく言えば、「電子マネーとは何か」という説明はもうしなくてよくなった。それだけ認知はされたと考えています。

――とはいえ、利用促進の課題は大きいですね。

眞鍋 現時点で顕著に見えているのは、やはり電子マネーは“ポイント中心”に展開しているということです(参照記事)。また、各電子マネー提供事業者ごとに、このポイントと電子マネーの連携で特色が見え始めたかな、と感じています。

――Suicaなど交通系電子マネーや、nanacoなど流通系電子マネーは『本業貢献』という位置づけで電子マネー事業を捉えており、一定の成果を上げています。一方で、ポイントや決済が軸足となるEdyや、クレジットカード会社のポストペイ型電子マネーは、その点で電子マネーの事業性において厳しいのではないかと感じます。この点についての見解をお聞かせください。

眞鍋 (鉄道や流通など)確かに本業を持つ事業者の電子マネーは、本業のためのポイントと深く結びついています。こういった電子マネーの場合、(電子マネーが利用できる)『場所』と『ユーザー』が1対1の関係で結びついている。自己完結性が高いと言えます。

 一方、Edyはこの『場所』と『ユーザー』に対してニュートラルな位置づけになりますから、垂直統合型ではなく、もっと幅広く広げていける。

――しかし、その幅広さが、Edyの利用促進の難しさや、事業性や採算性確保の課題になるリスクがあるのではないでしょうか? 実際、Edyの利用促進で成功を納めたのは、沖縄のように全日空のマイレージプログラム連携がうまく訴求できた事例がほとんどです(参照記事)

眞鍋 むろん、最初にEdyが伸びたきっかけはANAとのマイレージ連携で、この関係強化や(Edy=マイルの)場の拡大はしっかりしていきます。ですが、ANAとの連携だけでなく、これからはEdyの場をさらに広げていく。例えば、先日の楽天とのポイント連携(参照記事)もそうですし、そういった場の拡大でEdyを広げていきます。我々としては、(電子マネーで)1対1の拡大をするのではなく、『n×n』の関係を広げていくのがいいのではないかと考えています。

マイル・ポイント連携の訴求は今後も続けていく

――これまでEdyをはじめとする電子マネーは、『ポイントやマイルの魅力』に下支えられて成長してきました。特にポイント・マイルの流動性の中で、電子マネー交換のスキームがユーザーを惹きつけていたわけですが、この1年でポイント・マイルを取りまく環境は一変しました。ポイント・マイルは発行事業者の本業貢献のために存在すべきもので、会計基準の変更などもあって過度なポイント・マイルの付与や流動を好まない風潮が生まれてきています。これは本業を持たないEdyにとって逆風ではありませんか。

眞鍋 我々が新たに導入した「Edyでポイント」のスキームなどは(参照記事)、Edyの利用で楽天ポイントが貯まるといった具合にパートナーの本業に貢献するものと考えています。Edyというとポイントと電子マネーの交換というイメージがありますが、必ずしも我々は、そういった交換のスキームだけを重要視しているわけではありません。

 また我々自身が(鉄道や流通など)本業を持たないというのは、ニュートラルにポイントと電子マネーのプラットホームを広げる上では有利な点だと考えています。電子マネーという決済の部分は汎用的に展開し、ポイントプログラムは個々のものとして(パートナー企業が)利用することができるわけですから。こういったニュートラルなところを、今後も生かしていきたい。

7月8日からスタートした、おサイフケータイ向けの新サービス「Edyでポイント」。ANAマイルのほか、楽天やヤマダ電機、ベルメゾン、auポイントなど各種のポイントの中から、Edy決済にひもづけるポイントをユーザーが選べるというもの

――もう一歩離れた位置から電子マネー市場を見ますと、その利用の動機付けが「ポイント連携だけでいいのか」とも感じます。Edyのユーザーはポイントやマイルに対する感度やニーズが高い人が多いと思いますが、逆説的にいえば、ポイントやマイルに興味がない人は現金の代わりにEdyを使おうという気持ちにならない。電子マネーの市場拡大や利用促進のためには、ポイントやマイル以外の訴求力が必要だと思うのですが、この点についてどのような展望をお持ちでしょうか。

眞鍋 当面は(電子マネーと連携する)マイレージとポイントが利用促進の牽引役になると考えています。この部分の訴求で、新しいお客様になっていただけるユーザー層は、まだ存在します。我々は引き続き、マイル・ポイント連携の部分に100%のフォーカスをしていきます。

 その先は、ユーザーのセグメントごとにユーセージを考えて、利用促進のトリガーになるものは何かを考えていくことになると思います。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.