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» 2008年10月31日 17時26分 公開

著作権保護期間は「金の問題」? 中山信弘氏や松本零士氏が議論 (2/3)

[岡田有花,ITmedia]

 「著作権法に限らず、法律は各国で違うのが当たり前。結婚の年齢だって国によって違う。国籍が異なる2人がさらに別の国で結婚したらどうなるのか」

 「各国で違う法律をどうやってうまくやっていくかが国際私法や条約であり、ノウハウも積み上がっている。保護期間が違って困ることは理論的にはない。気分だけの問題だろう」

 国際的なライセンスビジネスの著作権処理を手がける弁護士の福井さんも「保護期間が異なるからといって実務で困ることはない」と話す。「保護期間が不統一だからビジネスがつぶれたということはない。常識的にありえない」

画像 福井さん

 法律は国益を考えて定めるものであり、欧米に合わせる必要はないというのが福井さんの主張だ。「死後50年というベルヌ条約の統一ルールはすでにある。欧米が死後70年に変えたのは、彼らの国益にかなうから。米国は文化の輸出国で、欧州はEU統合のために最長のドイツに合わせた」

 「先方は国益を考えて日本にも『保護期間を延ばしてくれ』と言うが、日本は年間5000億円以上の著作権赤字をかかえており、延長は損。言われるがままに延ばすことが国際協調とは言えないだろう。日本が延長すれば(日本同様に文化の輸入国である)発展途上国にとってはうれしくないだろう。そういう国を無視していいのか」

松本さん「最新の機材は世にも恐ろしい」

 松本さんは食い下がる。「創作の世界はいつ反転するか、いつどこの国が輸出・輸入に回るか分からない。現状がどうだからと今決めておくと後悔することになる。先進国も後進国も、ものの数ではない。共同の土俵の上に立って創作活動ができるようにしていただきたい」

 「漫画家は見下げられてきた職業だ。自殺した漫画家や、挫折して生涯を病院で暮らしている人もいる中、未来を信じては仕事をしており、国別の優劣はない。いかなる国の若者もあなどらない」

画像 松本さんは以前のシンポジウムで、「そば屋やうどん屋と作家を一緒にしないでほしい。そばやうどんは私にも作れる」と発言してネットで物議をかもした。その発言については「記憶にない」と話し、「料理屋さんの独特の味はまねできない、保護されるべきものだ思う。誤解しないでほしい」と訴えた

 インターネットを通じてグローバルにコンテンツが流通することに対し「恐ろしい」とも話す。「最新の機材は世にも恐ろしいシステム。黙っていれば世界中で見られる。プリントアウトもいとも簡単に、きわめて精度よく複製できる。世界中どこで誰が見てるか分からず、プリントアウトしたものを書籍として売る人が出るかもしれない」

 「日本語だけで配信した場合、1日3万6000ヒットだったのが英語で36万、ほかの言語にも対応すると120万でパンクしたこともあった。国際間で協定を結び、管理システムを相互で確立してもらわないと収拾がつかない。権利問題を解決し、ルールを作ってネットの流通機構を完成させてもらわないと」

賛成派・反対派 なぜ歩み寄れないか

画像 甲野さん

 延長賛成派と反対派の議論がかみあわなかったのはそれぞれが「原理主義的な考え方を貫いたから」だと甲野さんは主張する。「相手の意見に耳を傾けるという姿勢がもう少しあれば」――甲野さんは特に延長反対派に対して、クリエイターの意見をもっと聞くよう求めた。

 「保護期間延長はそれ自体が目的化しているとも言われていたが、延長反対もそれ自体が目的化していたのでは。延長するデメリットはたくさんあるかもしれないが、政策でデメリットを減ずることもできたと思う。具体的な政策を考え、議論をまとめるにはどうすればいいか考えるべきだったのでは」

 慶応大の生貝さんは、賛成派・反対派の立場の違いを指摘する。「延長を強く主張している創作者は自主独立の精神で地位を確立し、家族を守ってきた。延長しなくていいと考える人は、過去の創作物の表現をまねし、創作物が新しい創作の階段の1段目なればいいという考え方だ」

 対立の背景には、著作物を取り巻く環境の激変がある。中山さんは言う。「巨匠や文豪にとっての著作権法と、一億総クリエイター時代の著作権法は意味合いが異なる。審議会で意見を述べる人は巨匠や文豪。今の時代を反映していないのではないか」

 「立派な才能を持つごく少数の人がクリエイターだった時代から、誰もが作品をアップして見てもらえる時代に変わった。そういう時代に対応した著作権法や保護期間は何かを考えなくてはならない」

 ネット時代は、著作物の保護だけではなく利用の円滑化も考える必要があると福井さんは指摘する。

 「著作権実務でクリエイターから相談は受けるのは『創作活動をする上でこれは権利侵害にならないか』『権利処理できないがこんな作品を作ってもいいか』という利用に関する問題だ。保護期間が長ければクリエイターのためになるというわけではなく、長くて強ければ保護水準が高いとはならない」

 著作物をもっと利用しやすくすべき、という点については松本さんも賛同する。「保護期間は70年にした上で、利用される方々の共存共栄という問題も考えるべきだ」

どうなるフェアユース

画像 平日夜の開催だったが会場は満席で立ち見も出た

 著作物の保護と利用のバランスを取るための方策として「日本版フェアユース」の導入が、政府の知的財産戦略本部の専門調査会で検討されてきた。だが権利者から慎重な議論を求める声もあり、「どうも腰砕けで、次の通常国会は難しいだろう」と、専門調査会の委員も務めている中山さんは見通しを示す。

 「フェアユースには大きく期待していたのにがっかりだ。仮に次がだめでもその次の国会に向けてめげずに頑張りたい」――中山さんはフェアユース導入に積極的な立場で、その理由をこう説明する。

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