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「変化が激しすぎるかも」――急成長「pixiv」の1年を追う(2/2 ページ)

» 2008年12月25日 14時37分 公開
[宮本真希,ITmedia]
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「サーバは3台しか作ったことがなかったが……」

画像 pixivのサーバ。扇風機で冷却中

 月間PVは1月は5000万だったが、現在は4億。1年で8倍に膨れ上がっている。サーバ担当のエンジニア・店本哲也さんは「サイトが重い、でも解決方法が見付からない――というときが最もつらい。pixivほどのアクセス状況を経験したことがある人が周りにいないので、トラブルが起こったときにアドバイスを聞いても参考にならない」と漏らす。

 12月には、ユーザー・アクセス数の急増に対応するため、pixivの新規会員登録の受け付けを中止し、インフラ増強に当たった。「このままアクセスが右肩上がりを続けると、近い将来、ギリギリの状態になる」(店本さん)と考え、サーバの追加や最適化を行ったという(「pixiv」が新規登録受け付け再開 招待制は廃止

 新規登録の受け付けを全面的に再開するまで10日ほどかかったが、今回の作業は「それほど大変でもなかった」。今までで最も大変だったのは、開設当初と、10万会員を突破した今年春ごろ。サーバが落ちて、夜中に会社に呼び出されるということもしょっちゅうだったという。

 「pixivを始めるまで、サーバは3台くらいしか作ったことなかった」(店本さん)が、今は、店本さんが自作したサーバが100台オフィスに並んでいる。

「アニメを週に40本見てます」――pixiv運営者の1日とは

画像 上谷さん

 pixivは主に、片桐社長、上谷さん、店本さんの3人が運営している。

 3人はこの1年、ほとんど休みなく働き、サイト運営に追われた。働くのは午後0時から午前5時ごろまで。店本さんはサーバにかかりっきりで、起きてすぐにサーバの状態を確認し、問題があれば自宅で対処していた。就寝中にサーバにエラーがあれば、それを知らせるメールで起こされるという。

 片桐社長は毎日、新機能の開発や改善点の洗い出しなどを行っている。午前6時に更新するpixivのユーザーランキングを確認してから寝ることも多いという。上谷さんは午前5時ごろまで働いた後、大好きなアニメを見てから寝る。1週間に40本ほど見ているという。「ユーザーが描いているものを理解できるし」と話す。

 ちなみに上谷さんがpixivを開発・運営していることを家族は知らないという。「別に言う必要ないですから」(上谷さん)pixiv運営で忙しかった今年についても「淡々と過ぎていった」とあっけらかんと話す。

「ニコニコ大会議……ピクシブがやったら2秒でつぶれる」

画像 片桐社長

 pixivの収入は広告から得ている。企業の協賛を受け、特定のテーマでイラストを募集する「公式企画」も収入源の1つだ。売り上げは徐々に増えており、損益とんとんになった。運営費用を抑えるなど「かなり努力した結果。ミニマムでやってるから」(店本さん)

 「まともにやろうとしたら速攻赤字。ほんとつらくて……もっともうかって新機能の開発などに投資したいんだが。ニコニコ大会議みたいに7000万円もかけたら、2秒で会社がつぶれる」と片桐社長は嘆く(ひろゆき胸像、トルシエ登場、桜庭PV――赤字でも豪華なニコニコ大会議

 打開策として、有料会員制度を来年に導入する予定だ。ただし有料会員になっても、新たにブログパーツを使えるようになる程度で、機能はほとんど変わらないという。「有料会員制度は寄付っぽい感じ。やってみて有料登録する人が少なければ考え直す」(片桐社長)

 理想は、ユーザー課金だけでpixivの運営費用をまかなうこと。「今は広告が収入のメインだが、ユーザー課金の方が、ユーザーを見てサービスを運営できると思う。課金で、せめてサーバ代くらいまかないたいが……」(片桐社長)

 pixivと並行して続けてきた受託開発は新規契約をストップした。これからはpixiv1本でやっていく方針だ。「もともとWebサービスの会社をやりたかったから。これからはpixivとdrawrをもっと開発したい」(片桐社長)

 受託開発はこれまでの同社の収益の柱だったが「pixivの手応えも感じているし、いろんな手を打てば何とかなる。心配はしていない」(片桐社長)

来年はイベントにも注力

画像 年末のコミケで販売する「ピクシブたんイラスト集」に掲載する作品の一部

 来年のテーマは「モバイルとリアル」だ。まずモバイルでは、pixivの携帯電話サイトを強化し、PC版にはないオリジナル機能を追加する。お絵かきサイト「drawr」の携帯サイトもオープンする予定。pixivのiPhoneアプリも公開したいという。

 リアルでは、来年2月に上谷さんの夢だったというpixiv主催のイベント「pixivフェスタ」を開催する。「芸術は、実物として飾っていることに意味があると思うから」――上谷さんは、イベントを開きたいと考えた理由をこう説明する。イベントは1回限りではなく、今後も増やしていきたい考えだ。

 pixivで公開している「コミケマップ」のように、ほかのイラスト関連イベントともサイト上で連動していきたいという。「リアルのイベントに行くたびに、pixivを使うというふうにしたい」(片桐社長)

 「pixiv経済圏を作りたい」――GoogleがAdSenseプログラムで、ユーザーが稼げる仕組みを提供しているように、pixivでユーザーが稼げるような仕組みを構築したいとも考えている。

 「pixivを、お絵かきが楽しくなる場所にすることが目標。pixivによって、ユーザーがお絵かきが楽しいと感じれば、それが会社が存在する意義だと思う」

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