「ニコニコ動画」や「pixiv」が流行し、素人の作った動画やイラストをネット上で目にする機会が増えてきた。リアルな作品発表の場としては、同人誌即売会が盛り上がっている。そんな状況を取材しながら記者は思った。「同人誌を作ってみたい」と。
「みんながやってるんだから、自分にもできるような気がする」――同人人口は増え続けており、コミケには3日間で50万人が訪れると聞く。なんだか楽しそうではないか。軽い気持ちで記者は、同人誌を作ろうと決めた。
制作に参加してくれた仲間は4人。編集者で、学生時代に同人誌を作った経験のある岡田育さん、歌人でフリーライターの西川留美さん、小説家になりたいという、ロケットスタート社長の古川健介さん、高校時代の同級生のA子さんだ。
制作は、五里霧中で始まった。岡田育さん以外は同人活動はほぼ初めて。記者は高校時代に漫画研究部部長だったにも関わらず漫画制作経験は一度もないというヘタレっぷりだ。それでも冬コミ(コミックマーケット75)に出展しようというのだから、今考えると無謀にもほどがある。
そして案の定、さまざまな難関が待ち受けていたのだった。
オリジナルの創作同人にしよう――みんなで話し合う中で、基本線は決まった。「設定を作って共有しよう」「萌えキャラ描けないけど萌える本にしたいなぁ」「○○タンとか擬人化キャラ、いいよね」「でも擬人化は2ちゃんねるでやり尽くされているんじゃ」「タン……タン……タンといえば焼き肉じゃない?」
そんな会話からコンセプトは固まっていった。「肉」だ。「焼き肉学園」と「焼き鳥学園」が対抗する肉の擬人化ラブコメだ。主人公はカルビやロースやつくねやささみだ。脇キャラとして冷麺(留学生)も小粋に登場。「サンチュ像」と呼ばれるミステリアスな像もあるぞ。タイトルは「焼き肉焼き鳥恋物語」でどうだ。世界初の肉擬人化同人誌だ。新宿歌舞伎町の焼き肉屋「牛角」で、われらはやたらと盛りあがった。
担当も決まった。岡田育さんが主人公6人の設定資料を描き、その設定をベースに記者が漫画を、西川さんが短歌を、Aさんがその短歌に合ったイラストを、古川さんが小説を書く。統一テーマで多彩な創作が楽しめる本にしよう。
だがふと気付く。冬コミ当選が分かってから印刷所の締め切りまでは2カ月弱しかない。フルタイムで働く同人初心者で社会人のわれわれが、本当に本を完成させることができるのだろうか。
そんな不安は見て見ぬふりをしながら、制作が始まった。
「とりあえず、ITだ」。漫画を描くことになった記者がまず行ったのは、Amazon.co.jpで漫画制作ソフト「ComicStudio Pro 4.0」(コミスタ)を購入することだ。これがあれば、画材も不要で、時間もコストもかけずに漫画を描けるだろうと思ったのだ。
だが、それが大きな勘違いだったことにすぐに気付かされる。コミスタは多機能で、初心者がいきなり使いこなすにはハードルが高いのだ。ネームからコミスタで描くつもりで、ガイダンス映像を見て、分厚いマニュアルを眺めてみたがよく分からず途方に暮れる。
だいたいそれ以前に「漫画をどう描けばいいか分からない」という根本的な事実に気付き、呆然とした。
「漫画ってどうなってたっけ……?」
読者としては当たり前のように見てきた漫画だが、いざ自分で作るとなると、何から始めればいいのか見当も付かない。ストーリーのアウトラインはあったものの、1コマめをどんなシーンにするか、コマをどう割って構図をどう取ればいいのか。場面の転換は。まったく想像できないのだ。
焦って本屋に走り、漫画制作入門本も買ってみた。絵の描き方は詳しく載っていたが、コマ割りや構図、展開をどうするかといった、漫画作りの基本については部分は内容が薄い。
「どうする? どうする?」――いつかのオダギリジョーふうに焦ってはみるものの、締め切りまで時間がない。とにかく「順番を間違わずに読める」「意味の分かる」コマ割り・構成の漫画を、締め切りに間に合わせて描くことだけを考えようと決める。
「順番を間違わないコマ割り」は、手元にあった「東京ラブストーリー」の漫画を参考に構想。ネームからコミスタで描こうとした当初計画はあきらめ、ノートにネームを描いていった。ちょっと涙目になりながら。
何とか漫画らしきネームができた。次こそコミスタの出番。ノートのネームを見ながら、ペンタブレットでコミスタに下描きしていく。
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