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「BD課金の遅れは異常」――権利者団体、早期の開始求める

» 2009年02月05日 20時54分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 左から日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫常務理事、実演家著作隣接権センターの椎名和夫さん、日本映画製作者協議会の新藤次郎さん

 「Culture First」を掲げる権利者側の91団体は2月5日、Blu-ray Disc(BD)メディアとBD機器に対する録音録画補償金の早期課金を求める声明を発表した。「合意があってから約7カ月間も課金されない事態は極めて異常」としている。

 BDを補償金の課金対象に指定する政令の改正については、昨年6月、文部科学省と経済産業省が「ダビング10」実施に向けた措置として合意。早ければ昨年内にも改正されるとみられていたが、遅れていた。

 文化庁は今年2月3日になって政令案を発表。4月1日の改正を目指してパブリックコメントの募集を始めたが、メーカー側は改正に難色を示しているとされる。

 改正が遅れている背景について、実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫さんは、「メーカー側が『補償金制度はアナログ放送の録画に限定したもの。アナログチューナーのないデジタル録画専用機器は課金対象外にするなど、政令案に条件を付けるべき』と主張したためと聞いた」と話す。

 声明文では「文科省と経産省の合意は、ダビング10実現のための環境整備だったことは明言されており、メーカー側の主張はあり得ない」と指摘し、デジタル専用のBD機器でも補償金の課金対象とすべきだと主張する。

 日本映画製作者協議会の新藤次郎さんは「ダビング10に合意したのは、BDの課金対象指定という“バーター”があったためなのに、まだ指定されていないのは不満。レコーダー販売シェアでBDがDVDを逆転したと聞くが、BDが指定から抜け落ちているのは現状を反映していない」と不満をあらわにした。

 声明文では「BD課金は当然行われるべきことに過ぎず、それによって、権利者の考える『クリエイターへの適正な還元』が実現されるものではない」とくぎを刺しているほか、今後の議論について「省庁間の机の下ではなく、開かれた公開の場で行われるべき」としている。

デジタル専用DVDレコーダーを課金対象外とするなら「法的措置も」

 椎名さんによると、メーカー側は、すでに課金対象となっているDVDレコーダーについても、「アナログチューナーを搭載していないデジタル専用機は、補償金の課金対象から外すべき」と主張しているという。

 そういった主張に基づき、今後、デジタル録画専用DVDレコーダーについて、補償金の支払いに協力しないメーカーが現れた場合は「明確な法令違反として、法的措置も辞さない」という。

録音補償金についても議論を

 録音補償金についてのメーカーの態度にも言及。「録音デバイスの移行が進む中で録音補償金は激減している。メーカーは、録音については補償の必要性が残ることに合意しておきながら、制度の見直しに全く協力しない。その姿勢は理解に苦しむ」と声明文は指摘する。

 日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫常務理事は、昨年「ニコニコ動画」で行った、私的録音録画に関するアンケート調査の結果を紹介。私的録音に使っている主な機器はPCと答えた人が72.4%に上るなど「私的録音の8割は、(PCなど)補償金の対象外の機器で行われている。補償金は実質ゼロに向かっている」と述べる。

 調査結果から、30代までの全国の国民がPCに保存している楽曲数を推計したところ、合計239億曲に上ったという。「補償金の対象になっていない機器に239億曲保存されているとはびっくりした。1曲1円としても、239億円になる計算。すでに録音録画補償金制度は崩壊している。補償金という制度の精神も殺されているのが現状」(菅原常務理事)

 椎名さんは「権利者が239億曲をいくら、と言っているようにとらえないでほしい。そういう意図ではなく、ネット上での私的複製をどうするか、完全コピーフリーにするのかルールを決めるのか、議論を決着させる必要があるということ」と話した。

「解決が長引くほど権利者の不利益は増大する」

 私的複製について改めて根本的に考え直し、早期に結論を出すことが、コンテンツの流通促進にもつながると権利者側は主張。「コンテンツの私的複製に関する制度問題が棚上げされたままで、コンテンツ流通ビジネスの促進が語られ、権利者の権利を制限せよとの提案までされる現状に対し、われわれは強い怒りと危機感を覚える」と、声明文でも述べている。

 椎名さんは「ネット上でのコンテンツビジネスが軌道に乗っていないことと、私的複製の問題とは切り離せない」という持論を展開した。

 「ネット上の流通促進がうまくいかないと『著作権制度が悪い』とも言われるが、行き着くところは収益性の悪さだ。『トレソーラ』が失敗し、『第2日本テレビ』も苦しいと聞く。その背景には、ネット上には、私的複製されたコンテンツを含む無料のコンテンツがあふれており、ユーザーはそれだけで十分と思っている、という現実がある。私的複製の問題を解決しないと、流通促進もうまくいかないのでは」(椎名さん)

 「解決が長引くほど権利者の不利益は増大する。もう後がないというところまで来ている」と椎名さんは述べ、早期の解決を期待していると話した。

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