意識したのは、ポーティスヘッドのベスやビョーク、カヒミ・カリィといった女性ボーカリスト。「美しく個性的な大人の女性でありながらもダークな雰囲気と相まって、神秘的に見えるもの」を目指した。
衣装は、ミクやリン・レンの制服っぽい元気なイメージとは異なり、深いスリットの入ったセクシーなロングスカート。管楽器や木目調のモチーフをあしらい、アジアの民族衣装風デザインにした。
巨乳とセクシーな衣装は、欧米からの視線を意識した結果だ。日本のキャラが子どもに見える欧米人に対し、ルカは大人だとアピール。大人でありながら子どもにも見える声やイラストで、“アジアの神秘”を訴えかけようとした。「歌唱力の高い女性シンガーがごろごろいる欧米人に対して、声に不自然さが残るルカをいかに印象づけるかを考えた」
巨乳で成人という設定は、18禁の同人作品創作に使われてしまうリスクも高そうだ。佐々木さんも「それは自覚している」が、肌を真っ白にすることで、生命力が弱いような印象や冷たい印象を作り、「エロティックな要素と本人の状態をできるだけ切り離したいと考えた」という。
巡音ルカという名は、「広い世界を音が巡り、歌が流れる、伝達する」といった意味で、「巡」には「巡り伝わる音」を、「ル」には“流れ”を、「カ」には歌や香りなど空気中を流れ伝わるという思いを込めた。
ルカの歌声が文化や言語の壁を超えて世界に“巡”り、さまざまな人たちのPCで“流”れてほしいと考えている。「ミクを使った楽曲を、タイや中国、韓国の人が作ってくれている。バイリンガルのルカで、海外ユーザーが増えれば」。海外での販売の予定は今のところないが、反響を見て検討していくという。
「巡」という名字を選んだのは「消去法だった」と打ち明ける。「PCの中にある歌うプログラムで、Web上で自分を投影でき、それをいろんな人が見るというイメージを考えたとき、『鏡』や『巡』というキーワードが出てくることが多いが、鏡はもう使ってしまったので」
ミクやリン・レンは、最低限の設定のみを公表し、それ以上のキャラ作りはユーザーのイメージに任せてきた。だがルカは、名前のコンセプトや声、イラストのイメージなどを、発売前にブログで細かく説明した。「こういうイメージでいってください、という考え方を出さないと危ないと感じていた」ためだ。
「ミクはユーザーの手によってゆっくりとイメージ付けされていき、『はちゅねミク』『ネギ』といったネタもできていった。だがその後に出たリン・レンや、他社の『がくっぽいど』を見ていると、“ネタ化”のスピードが上がっている。ルカが強いネタとなったとき、ガチ曲(まじめな曲)とのバランスが偏ると、どういう見え方になるかが怖かった」
発売当日から、ルカで作られた楽曲が次々に「ピアプロ」や「ニコニコ動画」にアップロードされている。「予想以上に英語版を使っていただけて幸せ。日本語版よりも複雑な仕様なので、もっと敬遠されるかと思っていた」と佐々木さんはほっとした表情だ。
ユーザーの楽曲を聴き、ルカの意外な使い方に驚くこともあるという。「声質などのキャラ性をミクやリン・レンと比べるといじりやすさに欠けるため」か、コメディやパロディのような「ネタ曲」は、ほかのVOCALOIDに比べて少ないと感じている。
「ネタがキャラクター定着に悪い方向に流れず、ユーザーが望む方向に進んでいるように見えるので安心している。想定外だが、たこルカなどは斜め上かつすごくかわいいし(巡音ルカが“たこ化” 「たこルカ」人気)」
CVシリーズはルカでいったん休止する。「今後はより複合的な展開として意義がある形にしたい。外伝的なものは、あるかもしれない」
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