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初音ミクへの思いこそ「究極の愛」か 現代の恋愛、人気作家など議論ORF 2010(1/2 ページ)

» 2010年11月26日 17時34分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 恋愛への興味が薄い、「草食化」した男性が増えていると言われる。初音ミクなど2次元キャラを“俺の嫁”と愛したり、「ラブプラス」があれば現実の恋人はいらないと豪語する男性もいる。

 ネット社会の進展で、「恋愛のアーキテクチャ」は変わったのか――社会学者の濱野智史さん、小説家の平野啓一郎さん、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」などで知られる脚本家の櫻井圭記さんがこのほど、都内で開かれた慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のイベント「Open Research Forum 2010」のセッションで議論した。

 「若者はコストパフォーマンスで恋愛を考えている」「初音ミクへの思いこそ、究極の愛と言えるかもしれない」「携帯電話の登場以来、恋愛小説作りは難しくなっている」――30歳前後とほぼ同年代の3人は、初対面ながら活発に意見をぶつけあっていた。

画像 左から濱野さん、平野さん、櫻井さん

「コストパフォーマンス」と純愛 「ラブプラスのほうが理想に近いのかも」

 コストパフォーマンス――櫻井さんは、若者の恋愛の変化を、こんな言葉で表現する。「このレベルの彼氏、彼女を選るのにこれだけのコストが見合っているのか、考えている感じがする。付き合うことのコストを見積もり、コストパフォーマンスを重視しているように思う」

画像 櫻井さん。20代の若者は「僕らのころより、踏み込むこと、踏み込まれることに対して抵抗が強いような感じは受ける」

 加えて、「素敵な彼氏彼女は引き当てるもので、当たり外れが決まっている」という感覚も。インターネットを通じて出会いの機会が増えたため、「成長しあって素敵なカップルを目指す」といった発想がなく、“当たり”の彼氏・彼女か、投資対象として見合ってるかを判定しているように見えるという。

 こうした考えは、櫻井さんが実際に見たケースに基づく。櫻井さんが講師を務める大学のある学生は、同じゼミの異性については「話にならない」として付き合おうとしなかった。また会社の後輩の20代の男性は、親密な女性はいるものの、この女性を彼女とはみなさずに「セフレ」として付き合っていたという。「恋愛には積極的だが、このぐらいのレベルなら恋愛ではないという認識のようだ」

 一方で、「ロマンチックラブイデオロギーは薄れていない」。彼らは“本物の”恋愛対象が現れれば時間をかけてデートをし、お金をかけてプレゼントを贈るべきと思っているという。

 「セフレと素敵な恋を育てていく、という感覚はないようだ。恋人にはこうすべきという認識に縛られており、恋愛のハードルはむしろ上がっている。(気軽な付き合いは)ラブプラスぐらいで十分、いや、ラブプラスのほうがはるかに理想型に近いのかもしれない。恋愛の距離感みたいなものが、測りにくくなっているのでは」

ミクへの思いが究極の恋愛?

 「恋愛の原義は、不可能な対象への情熱、神への愛情で、人間同士のものではなかった」と濱野さんは指摘する。「絶対ありえない対象への情熱」という原義に返るならば、「ちょっとむちゃくちゃだけど、初音ミクに恋愛するほうが自然だと思う」(濱野さん)。

画像 濱野さん

 手近な女性ではなく初音ミクのような対象と結ばれることが「究極の恋愛」とされ、バーチャル技術の進展で、初音ミクとセックスまでできるようになったら――櫻井さんが示すそんな未来に対して、平野さんは言う。

 「シミュレーションの精度が上がっていくと、ほんのちょっとの違いが膨大な違いに思え、えんえんとそこが気になるのでは。恋愛観が強固にある以上、『恋愛とほとんどいっしょ』の“ほとんど”が、気になって仕方なくなるのではないか」

 「リアル」の意味も変わっていくと濱野さんは言う。例えば、初音ミクのコンサートを会場で見たある人は、「会場ではなくニコ動で見たかった」と話していたという。「コメント付きでないと、ミクを見てる感じがしないらしい。わたしはフルHDのBlu-ray Discでミクのライブを見たが、ニコ動のSD画像と違い、寒々しい感じがした。どこにリアルが宿るかも、音質や画質でなくなる可能性もある」

初音ミクという「4人称」の愛

 初音ミクを通じて、オタクの愛のフェーズは新たな段階「4人称の愛」に入ったと、濱野さんは言う。

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