また、「ウィキリークスは金儲けが目当てなのか?」と思う方もいるのではないだろうか。本書にはところどころ彼の生活スタイルが描写されているが、そこで描かれている限り、およそぜいたくには縁のない生活を送っているように見える。バックパックに最低限の衣服や荷物を詰め込み、小型のネットブック(300ユーロのEeePCだそうだ)を持って、カウチサーフィンのサービス(参照リンク)を使ってネットで知り合った知人の家を泊まり歩く。ビジネスホテルにすら滅多に泊まらないという。
逮捕につながった、スウェーデンでの出来事も『全貌ウィキリークス』に詳しく書かれている。オーストラリア人のアサンジがスウェーデンに行くことになったのは、社会民主党キリスト教派に講演に招かれたからだ。党のスポークスマンであり、アサンジに宿泊所として自宅を提供した女性アンナ(30歳)、彼にあこがれてその講演を聞きにやってきた女性ソフィア(25歳)の両方と、アサンジは肉体関係を結ぶ。特にアンナはTwitterで「世界でいっちばんクールでスマートな人と一緒なの」と書いていたことまで引用されており、二人とも合意の上での関係だったことはほぼ間違いない。性暴力だとして2人の女性が訴え出たのは「(女性の)合意を得ず避妊をしなかった」という点であり、おそらくほとんどの日本人男性の感覚では、これは犯罪行為に当たらないだろう。
アサンジのこういった生い立ちやハッカー気質を知った上で改めてウィキリークスのしたことを見返してみると、ウィキリークスが既存のメディアとは明らかに違う立ち位置にあることが理解できると思う。メディア各社の中でもウィキリークスに対する姿勢はいろいろだが、いくつかのメディアからは強い批判を受けている。ネットの世界でも、当初からウィキリークスに嫌悪感をあらわにしているのが、名前の似ているWikipediaだ。各国語で「ウィキリークスとウィキペディアは関係ありません」(参照リンク)というページを載せているほどである。
駆け足でウィキリークスの1年を追った本記事だけでも、なぜこの話題が米国で急激にホットになり、ジュリアン・アサンジが国際指名手配されるほど米国政府に憎まれているのかが分かったのではないだろうか。本記事の冒頭で、コラテラル・マーダービデオを尖閣諸島の流出ビデオになぞらえたが、その後ウィキリークスがリークした機密データの数々は、ビデオ1本とは比較にならないほどのボリュームとインパクトだったからである。
既存メディアはなぜウィキリークスに反発するのか。アサンジは「ジャーナリストと呼ばれるのはむしろ屈辱」とまで言いながらも、なぜ既存メディアと共闘するのか……。『全貌ウィキリークス』には、本記事では触れていない、ウィキリークスとジュリアン・アサンジについてのさまざまな側面が描かれている。詳細について知りたい人は、ぜひこのドキュメンタリーを一読することをおすすめする。
この数カ月で、『全貌ウィキリークス』だけでなくさまざまなウィキリークス本が発売されている。2〜3月に発売予定のものも含めると、私が把握しているだけで8冊という出版ラッシュだ。本記事がきっかけとなり、どれかを手にとってもらえたら筆者としては非常に嬉しい。また今回、発売前に『全貌ウィキリークス』のゲラをお送りいただいた早川書房にもお礼を申し上げたい。
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