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始めるより終わらせることのほうが難しい──持続的な活動へ現場ルポ・被災地支援とインターネット

» 2011年05月27日 18時22分 公開
[藤代裕之,ITmedia]

大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。

ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに報告していただきました。(編集部)


▼その1:「情報の真空状態」が続いている

▼その2:できる範囲でやる──ボランティア情報サイトの立ち上げ

▼その3:「ありがとうと言われたいだけのボランティアは 必要としていない」

▼その4:ターニングポイントになった夜

▼その5:チームを作る 誰がDBを作るか、プロデューサーは誰か

▼その6:有用性と実装スピードの両立 「とにかくこれでやらせてくれ」

▼その7:データベースは5カラムで設計 学生チームが入力を始める

▼その8:Yahoo!チームが訪ねてきた データベース情報の利用が始まる

▼その9:ボランティア情報がない?

▼その10:Facebookで情報を共有 学生ボランティアが支えた活動

▼その11:仙台駅内にボランティア情報ステーション開設 希望者が続々訪問

 戦争における撤退戦が困難であるように、プロジェクトも始めるより終えるほうが難しい。東日本大震災から2ヶ月が経過し、ボランティア情報ステーション(VIS)では、持続的な活動にシフトすることが迫られた。

広がるデータベース利用

 ボランティア活動でやっている以上、終わりを想定する──最初からチームメンバーには伝えてきたが、運用しているボランティア情報データベースが利用されるようになり、やめるのが難しくなっていった。まとめサイトをスタートさせたときには1週間の活動予定が1カ月、そして2カ月と延びていった。

 4月末にはVISの活動は主に4つとなっていた。(1)ボランティア情報の収集とデータベースへの入力、(2)ボランティア情報の掲載面を増やす、(3)データベースの改良と保守、(4)仙台駅でのリアルステーション運営──だ。

 (1)は学生運営から横浜にある「かながわ東日本大震災ボランティアステーション」などに引き継がれ、(4)は仙台のボランティアが、(2)と(3)を東京のメンバーが担当するという体制になっていた。ボランティア情報は、Yahoo!、goo、ニフティ、msnの主要ポータルサイト、iPhoneアプリも制作され、利用は広がりを見せていた。

 ゴールデンウィーク対策に立ち上げた仙台駅のステーションは、4月23日から5月8日までに約8000人が来場、情報提供の大きな役割を果たした。相談内容の約半分がボランティア情報で「今日出来るボランティアはあるのか」「どこか受け入れてくれないか」といった声が寄せられた。受け入れ情報だけでなく、注意点、防塵マスクの配布や長靴などの装備の紹介も行い、ボランティア終了後にステーションに立ち寄って、感想を話す人もいて交流の場ともなった。

難しくなりつつあった活動

 ゴールデンウィークが明けて、ボランティアへの関心は低下し始めた。

 ゴールデンウィークのボランティア殺到に備え、被災地のボランティアセンターなどは「受け入れ停止」「県外者を受け入れない」などの対応がとられ、新聞やテレビで紹介されたが、ゴールデンウィークが明けると一転「ボランティア減少」の文字がメディアに登場することになった。仙台駅のステーションでも最後の週末は減少傾向にあった。連休後半の5月3日の来訪者は763人だったが、5日544人、6日509人、7日484人と減少して行った。

 企業内での関心も低下し、VISの活動も難しくなっていた。チームの中心は社会人で構成されており、仕事時間が削られることやボランティア活動そのものに対する冷ややかな目線も増えていた。そこで活動のために研究費の申請を行った。

 申請したのは社会技術研究開発センター(RISTEX)の研究開発成果実装支援プログラム(緊急募集)で、既存の研究をベースにし、既に被災地支援の実績があり、早期に社会に実装されるという条件があったことから、可能性があるのではないかと考えたが、採択されなかった。工学やバイオ、被災地エリアの大学が選ばれていたのは方針なので仕方がなかったが、結果が出るのが予定より10日遅れたのは誤算だった。時間は何ものにも代えがたい資源であり、判断が遅れればそれだけ選択肢が少なくなってしまう。「緊急」の時間概念が研究者コミュニティーとは違っていたのだろう。

 VISは震災時に急に立ち上がった組織であり、過去の実績がないこと、現場を支援するインフラ的な活動であることから、一般的なボランティア助成の対象になりにくい。チーム内では、研究費が外れた場合は厳しい状況をオープンにして、引き取り手や資金援助を探すと決めていた。関連するメーリングリストにメールを流したり、関係者にあって相談したり、することになった。資金援助や引き取り手が現れないようなサービスならその程度でしかないということだ。

一歩引いた形で応援

 いくつかの反応があり、活動趣旨への賛同表明や助成の紹介などを行ってくれたが、継続的な活動を行うための核となる組織の引き受け手はなかなか現れなかった。5月18日に、東京と横浜、仙台それぞれの活動チームから希望者が、仙台を拠点に新しい団体「ボランティアインフォ」を設立することになった。仙台駅ステーションの活動のおかげで、宮城県や仙台市のボランティア関連者とのつながりも出来たので、それも生かすほうがよいと考えた。新団体は、リアルの拠点やWebなどを使って、ボランティアに来てほしい人や地域と希望者をつなぐことになる。

 21日夜、助けあいジャパンの会合があり、新たな団体に引き継ぐことを紹介。VISチームは、新たな団体が立ち上がり、自走できるようになるまで側面支援に回ることになった。持続的に活動するためには資金や組織体制の整備が必要で、その獲得(いまのところまったく目処が立っていない)や団体申請の手続きサポート、データベースのメンテナンスなどがある。これからは一歩引いた形で新たな団体を応援していくことになる。

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