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» 2011年08月18日 18時09分 公開

「鉄」は無関係。擬人化で盛り上がる上海地下鉄 (2/2)

[方静,ITmedia]
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中国には鉄道文化はない

 地下鉄擬人化の舞台裏にも観客席にも「鉄」の存在が薄かったことは不思議に思われるかもしれない。日本の場合、鉄道擬人化の誕生は鉄道趣味の普及とそれに伴う鉄の活躍とは切っても切れない関係にある。鉄道ライター・漫画家の恵知仁さんが作りだした新幹線擬人化や、鉄子が企画した駅擬人化プロジェクトなど、どれもこれも鉄道文化の文脈を抜きにして成立できるものとは考えられない。

 しかし、多数の中国人にとって、鉄道文化を考える前に、まず鉄道自体がまだ日常生活の一部にはなっていない。1969年に運行し始めた北京地下鉄1号線は、81年まで軍隊しか使えなかった。鉄道が日常の交通機関として登場した歴史は約30年。日本で最も影響力を誇る鉄道雑誌「鉄道ファン」の創刊よりも20年遅れている。

 中国の鉄道文化がまだ未明期にあることはいうまでもない。もちろん、本格的な鉄もいるが、列車の写真を撮ろうとしたら不審人物に思われ、駅のスタッフに止められることなど彼らの間では日常茶飯事。いったいどこから鉄道擬人化がうまれたのか。その疑問を解けるキーワードは「鉄道」ではなく「擬人化」である。

 実は、上海地下鉄家族の前にも、中国のネット上は既に擬人化創作でにぎわっていた。そのきっかけとなったのは、日本で09年から配信し始めた国擬人化アニメ「ヘタリア」だ。分かりにくい歴史の出来事を各キャラクターの性格やお互いの関係で描き、異なる個性を持つ国々の日常生活をめぐるそのコメディーに引かれたファンたちは、二次創作だけでなく、オリジナルのキャラクターも手がけ始めた。

 09年から10年にかけて、中国各省擬人化、高校擬人化などのイラストがネット上で相次いで現れ、いくつかの人気作も誕生した。1つは09年中国政府が強制的にインストールを要求したPC検閲ソフトの擬人化キャラクター「グリーンダム娘」。そして、翌年に韓国アイドルグループ「SuperJunior」のオフィシャルサイトやファンクラブに対する集団ハッキングを行う際に、宣伝手段として作り出された各掲示板やSNSサイトの擬人化。また、同年11月の大手ソフト企業の紛争から生まれたソフトウェア擬人化がある。

 上記の文脈からもはっきり見て取れるように、上海地下鉄擬人化は09年から始まった一連の擬人化ブームの後継にすぎない。地下鉄擬人化を通じて鉄道の世界へ踏み込んだのが中国のパターンで、シャワーさんも「ネタを探すためにいろいろな資料を調べる中で、だんだん地下鉄自体の面白さも感じてきた」と述べている。一方、地下鉄擬人化の人気に伴い、上海メトロ側に鉄道グッズや購入方法に関する問い合わせも増えてきた。

上海メトロも創作を後押し

 擬人化趣味から鉄道趣味への動きに気づいて、運営会社の上海メトロ側も積極的な姿勢を見せた。地下鉄擬人化が話題となった直後、作者とミニブログを通じて連絡をとり、創作に必要なデータ提供に取り組んだ。5月に行われた地下鉄1日乗車券デザインコンテストでも、シャワーさんともう1人の作者を特別ゲストとして現場に招待し、擬人化キャラクターの試作Tシャツも公開した。

 擬人化の人気に乗ってPRを展開しようとするメトロ側の試みは、確かに一定の効果を果たした。地下鉄擬人化ブームの最中、上海メトロオフィシャルミニブログのフォロワー数は毎日3000人以上のスピードで増え、10日間で3万人増を達成した。メトログッズへの関心も高まり、わざと記念品ショップへ買いに行った人もいれば、擬人化キャラクターの商品を購入したいという声も聞こえるようになった。作品のオフィシャル化を求めるそれらのファンたちは、「創作の長期化、グッズの定期的な更新」を望んでいる。

 その願いは一見簡単に実現できそうだ。日本でもエアブレーキを猫耳キャラ化する「ファステックたん」や地下鉄駅を美男子化する「ミラクル☆トレイン」など、ネット上で知名度を上げてから、商業化の展開を迎えた作品が数多く存在している。しかし、中国でその願望をかなうには、予想以上の時間がかかるかもしれない。

 オフィシャル化に対して、作者のシャワーさんは「上海メトロとの連携関係を保ちながら、独立で創作を続けたい」と消極的な態度を示している。あくまでも片手間の興味で、本格的な創作には時間がないのが主な理由だが、背景には中国のアニメ産業の発展の遅れもありそうだ。

 「COMICUP」という同人誌即売会は、今年中国で開かれる百以上の即売会の1つ。2007年の第1回は来場者数が1000人未満だったが、今年の第8回では2万人に上った。このような同人誌市場の急成長と比べると、中国漫画アニメ産業の発展ははるかに遅れている。製作本数が多ければ多いほど政府からの資金援助も増えるため、世界一の年間製作量を誇るにもかかわらず、レベルの高い作品は滅多にみられない。また、産業の各部分が一体化されていないことで、漫画→アニメ→グッズという商業化ルート自体がばらばらの状態にある。

 こうした状況の中では、ネット上の人気作が製作会社の目にとまって商業化される可能性は低い。もし商業化できたとしても、同人作品より質の良いものが出るとは限らないため、作者は独立した創作を選ぶのかもしれない。

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