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“非選抜”として脇を固める大切さ――楽天・杉原取締役キーマン、本を語る【自分がどうありたいかを振り返らせてくれる3冊】(1/2 ページ)

» 2012年08月16日 15時20分 公開
[取材・文/伏見学,ITmedia]

本連載の第1回はカヤックの柳澤大輔社長、第2回は本城慎之介さんが語ってくれました。



 楽天で取締役 常務執行役員を務める杉原章郎氏は、同社創業時の主要メンバーとして初期の出店営業部門を立ち上げた後、新規事業開発部長やオークション部長、楽天ブックス社長、開発部担当役員などを歴任し、今年4月からグローバル人事部の担当役員として、新たな領域に挑戦している。杉原氏の言葉を借りると、異動ではなく“転職”というほどこれまでの仕事とダイナミックに変わったそうだ。

楽天 取締役 常務執行役員 グローバル人事部 担当役員の杉原章郎氏 楽天 取締役 常務執行役員 グローバル人事部 担当役員の杉原章郎氏

 ここ数カ月は、やることや見聞きすることがすべて新しいことばかりで、目まぐるしい日々を送っているという。「ただ、営業や開発を統括しているころも組織をいかに運営していくかを考えたり、メンバーのモチベーションを高めて、楽しく、しっかりと仕事してもらうために努めたりしていました。これは人事そのものだと思います。こうした命題に対し、グローバル全体で楽天をより良い会社にするために取り組んでいくことが私の役割だと感じています」と杉原氏は力を込める。

 また、杉原氏は社内公用語の英語化プロジェクトにもかかわってきた。楽天は、2010年に三木谷浩史社長が「英語の社内公用語化」を打ち出して以来、経営会議や全体朝会、決算説明会などで使われる言語が英語になったり、社員の役職に応じてTOEICの必要スコアが設定されたりするなどしてきた。今年7月からは全社員を対象とした完全英語化に切り替わった(詳しくは三木谷浩史著「たかが英語!」などを参照)。

 こうした取り組みの推進役として奮起したのが杉原氏ということで、さぞかし英語が堪能なのだろうと想像していたが、実は「英語は苦手で、今でも流暢に話せるわけではありません。2年前のTOEICのスコアは350点程度でした」と杉原氏は照れながら話す。

 杉原氏はこの2年間、文法やリスニングを中心に、毎日コツコツと学習を続けてきた。その結果、昨年末にはTOEICのスコアが800点を突破した。「自分を実験台にしてもらうことで、英会話の集中レッスンを受けたり、オンライン教材などを買ったりと、いろいろなことを率先して試し、ほかの人たちに勉強法を伝えることができました」と杉原氏は振り返る。また、英語を不得意としていた杉原氏が努力する姿を目の当たりにし、多くの社員が励まされたという。

 このように、創業してから全力で走り続けてきた杉原氏だが、40歳を越えたのをきっかけにこれまでの人生と、これからの人生を考えるようになったという。最近は、自分がどう生かされてきたか、これからどう生きていくかということを考える機会が多く、今回紹介していただいた3冊も、自分自身がどういう風にありたいかということを立ち返って考えさせてくれる本だという。

 杉原氏は20歳で生まれ故郷の広島から上京し、40歳を過ぎたことで故郷での生活と、一人でゼロからスタートした生活が逆転した。そうした中、昔の自分が写っている映像を見たり、書いた文章を読んだりすることで、まだまだ青二才の自分を恥ずかしく思いつつも、感慨深くなるようになった。

「これまでの人生を振り返ると、世の中は自分が変えていけるのだと勘違いしていたときもありました。今では一人では何もできないなと実感しています。多くの人たちと道を同じくし、協力して1つのモノを作り上げていくということの難しさと面白さを、この楽天という会社を15年間、三木谷さんと一緒にやらせてもらった中で感じました。共に知恵を出し合って、努力し合って、自分を高めながら1つの目標を乗り越えていくということを、この会社で働かせてもらいながら楽しんでいます」(杉原氏)

「置かれた場所で咲きなさい」

 人事担当になって初めて手に取ったのがこの本です。新聞広告で偶然知って興味を持ちました。

渡辺和子著「置かれた場所で咲きなさい」(幻冬舎) 渡辺和子著「置かれた場所で咲きなさい」(幻冬舎)

 人間はありのままが素晴らしくて、人間は心の持ちよう次第でどんなに強大にも、弱くもなれる生き物であると、言い古されたことだけど、改めて本書にはそれが丁寧に書かれています。いつも傍らに置いておいて、嫌なことがあったり、難局に差し迫ったりしたとき、ストレスを感じるときには、パラパラと本をめくって癒しにしています。

 著者の渡辺和子さんにはお会いしたことがありませんが、非常に柔和なおばあさんを想像させます。この方でも若いころはトゲトゲして、周囲に当たり散らしたりしたそうです。自分の振る舞い一つで良くないことが起こったりしたけれど、そこから学ぶことでカドがとれ、今では相手を取り込んで自分も成長することを体現されています。僕もそうありたいなと思っています。

 僕自身、20代や30代前半のころは、ガシガシ切り込んで突破していくだけの日々を過ごしていました。40歳を過ぎて、チームや組織、仲間といった、ほかの人たちと、一人では実現できないもっと大きなものを成し遂げたいという願いがあります。この本には、そのために自分が成すべきことは何かというのが書かれています。リーダーという立場にある方はぜひ一度お読みになったほうがいいのではないでしょうか。

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