VOCALOIDを買っても、できるのは歌わせるだけ──ヤマハはそれを変えようとしているのかもしれない。ヤマハはドイツの子会社Steinberg Media Technologies製の音楽制作ソフト「Cubase」にVOCALOID機能を組み込むソフト「VOCALOID Editor for Cubase」を今冬に発売すると発表した。価格はオープンプライス。
人間のようにリアルな歌声合成を行うヤマハのVOCALOIDは初音ミクをはじめとするさまざまなバーチャルシンガーを使えるアプリだが、楽曲を完成させるためにはCubaseのようなDAW(デジタルオーディオワークステーション)というソフトと何度もファイルをやり取りする必要がある。いったんDAWでボーカル以外の演奏を作った後でVOCALOIDソフトを立ち上げ、WAVファイルに書き出して、それを再びDAWに取り込んで確認する。ミスがあったり、歌詞を変えたりすると同じ作業をその都度繰り返さなければならない。この煩雑さをなんとかしたいという構想はVOCALOID開発当初からあったと「VOCALOIDの父」剣持秀紀氏は説明する。
「VOCALOID Editor for Cubase」を使うと、ほかのソフトシンセサイザーと同様にVOCALOIDを1つのトラックとして使うことができる。その流れは本当にシームレスで、キーボードで入力したMIDIデータをVOCALOIDトラックにペーストすると、そのまま「あああー」と歌ってくれる。
演奏に合わせてVOCALOIDの歌詞やメロディーを変えたり、逆に歌詞に合わせて演奏にブレイクを入れるといったことがアプリを移動せずに手軽にできる。リバーブ、コンプなどさまざまなプラグインをCubase内のオートメーションとともに使えるというメリットもある。実際、発表会のデモで行われた作業も10分かかるものが2分ですんだり、15分の作業が5分で終わったりしていた。
今回はDAW側からのアプローチだが、VOCALOID側も機能を拡張。VOCALOID3では伴奏用のWAVデータを取り込んだり、Job Pluginというスクリプト拡張の仕組みを取り入れたりしている。このJob Pluginについても、VOCALOID Editor for Cubaseでは対応を予定している。
動作する製品はWindows版Cubase 6.5。ハイエンド版のみだ。残念ながらMac版は非対応。Mac版VOCALOIDについては「検討しております。お待ちください」と従来の通りだが、MacとWindowsのクロスプラットフォーム製品であるCubaseでエディタができたということで「距離は近づいている」と剣持氏は言い添えた。Macユーザーは期待をつないでおこう。
ミュージシャンの戸田誠司氏は2008年に「DAWソフトにはすべてボーカルシンセが実装される」と予言していた。今日はその第一歩と言っていい。ヤマハがVOCALOIDエディタをサードパーティにも開放すれば、DAWアプリを抱え、VOCALOIDデータベースを提供しているインターネットやAHSのような企業もVOCALOID付きDAWに参入してくるに違いない。
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