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出版社への隣接権付与ではなく、出版権の拡張で対応を──中山教授ら法学者・弁護士が提言

» 2013年04月04日 20時03分 公開
[ITmedia]

 出版社に隣接権を付与するのではなく、出版権の拡張で対応を――中山信弘 明治大学研究・知財戦略機構特任教授など著作権分野の法学者や弁護士6人が4月4日、「出版者の権利のあり方に関する提言」を発表した。デジタル時代に対応した出版側の権利のあり方として、従来の「出版権」を電子出版にも対応できる著作権法の改正を検討するよう提言している。

 電子書籍の普及をにらみ、出版者(=出版社)が著作権に準ずる「著作隣接権」を求める動きが進んでいる。出版社側は電子書籍の流通促進や海賊版対策を目的としているが、「出版側に著作隣接権を認めている国はほとんどなく、権利者が増えることでむしろ電子書籍ビジネスを阻害する可能性がある」(日本経団連)という批判もある。

出版権の拡張で対応を

 提言は「明治大学知的財産法政策研究所コンテンツと著作権法研究プロジェクト」での議論を踏まえ、中山特任教授や福井健策弁護士、上野達弘 立教大学法学部教授など6人が提言した。

 提言では、出版者に対し隣接権を付与するのではなく、出版権を拡張することでデジタル時代に対応するよう求めている。出版することで自動的に発生する隣接権と異なり、出版権は作品の作者(著作者)と出版者の契約によって発生する。当事者の合意があれば法改正前の作品にも拡張でき、権利を分散させずに著作者の意思に基づいた活用を期待できるとしている。また海賊版差し止めなどのニーズにも対応可能としている。

 特約で「印刷のみ」「電子出版のみ」という設定も可能にすることで、多様な契約のあり方に対応できるとしている。現行の出版権が再許諾不可なのを改め、特約がない限り再許諾も可能にすることで、最初の出版の後に他社で文庫化したり、多数のプラットフォームでの配信することも柔軟に行えるようになるとしている。

 提言は、出版物のデジタルデータを集め、円滑に流通させるための「ナショナル・アーカイブ」構築に向け、権利の分散化を避けつつ、出版物の権利を著作権法上でどう位置づけるかを検討したもの。権利情報の登録制度を拡充し、登録しやすくすることも提言している。

日本経団連は「電子出版権」提唱

 日本経団連は2月、出版社への著作隣接権の付与に懸念を示した上で、「電子出版権」(仮称)の新設を提言した。ネット上の違法流通に対抗する権利を付与するのが狙いで、電子出版権は出版社に限らず、ネット企業など「電子書籍を発行する者」に対して与えられるとした。具体的には、

  • 電子書籍を発行する者に対して付与される
  • 著作権者との「電子出版権設定契約」の締結により発生する
  • 著作物をデジタル的に複製して自動公衆送信#2する権利を専有させ、その効果として差止請求権を有することを可能とする
  • 他人への再利用許諾(サブライセンス)を可能とする

──を要件としている。

 出版社への著作隣接権については、「多くの副作用が懸念され、わが国の電子書籍ビジネスの発展に対して阻害要因となるおそれすらあることから、こうした提案を一部関係者によって拙速に進めることは、経団連として賛成しかねる」と反対。隣接権の付与と電子書籍ビジネス発展との関係が薄い点や、著作権者からも反対の声があり、統一した賛同意見がないことも理由として挙げている。

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