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「ネットの支援を受け、自分が欲しいものをつくる」――市場調査に頼らない“1人文具メーカー”の挑戦(2/2 ページ)

» 2013年07月02日 09時30分 公開
[山崎春奈,ITmedia]
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 もともと文房具が好きで、市販の商品を改造したり、簡単なものを自作していたという。「鉄道オタクに『乗り鉄』や『撮り鉄』があるように、文具もいろいろな愛し方があって、僕は自分で作りたいタイプでした」。

 最初に商品化したものは、どんな大きさの本にも対応する「フリーサイズブックカバー」。超薄型のマジックテープを使用し、本のサイズに合わせて調整できる。同じ判型でも厚みがある本にはフィットしないことがある、文庫サイズでもレーベルによっては微妙に縦幅が違う。でも、いくつもカバーを用意するのは面倒くさい――自分の読書を便利にするために制作したが「売ってみたら好評で驚いた」。

 続けて、関西の文具好きが集まる「どや文具会」のメンバーを中心に、理想のペンケースを求めて開発したのが「どや文具ペンケース」。収納ボックス部分とロール式トレイが分かれていて、使用時は中身をすべて広げられる。片付けは、トレイを持ち上げて滑らせれば一瞬で完了。「ファスナー式だと下のほうが取りにくいし、ロール式だと収納量が少ない。どちらの欠点も解消したかった」。Twitter上でハッシュタグを作り、設計図やプロトタイプを公開しながら全国の文具好きと意見交換して作り上げた。

photo 大手書店での販売も好調。「『買ったカバーが合わない』という問い合わせが随分減ったそう」
photo こだわったのは内容量の多さ。「0.5リットル、大きいビール缶がすっぽり入ります。文具好きはとにかくたくさん持ち歩きますからね」

 現在量産に向け最終段階の「立つノートカバー」は、「文具として多分初めて」(阿部さん)クラウドファンディングを使って資金を集めている。目標額は100万円で、現在の達成率は約3割。出資は1500円から受け付けており、一般発売より前に初回ロットが届く。支援者から届いたコメントを受け、実際に改良を加えた部分もあるそうだ。

 阿部さんが、文具メーカー「Beahouse」として独立したのは昨年の秋。「自分が欲しいものが同じように欲しい人って意外といるんだ」と気付いたので「不安はほとんどなかった」という。「市場調査して作る文具はどうしても似たようなものになりがち。僕は売れるものより自分が欲しいものを形にしたいし、1人で取り組むことでいい意味でわがままにできるのが強み。大手のメーカーに自分が作ったものを真似されるくらいになりたい」(阿部さん)。

 3Dプリンタに関する話題も増え、個人のもの作りが注目されている。「文具以外にも、自分でもの作りをしたい人は多いだろうし、もっと増えたら楽しい。支援するシステムは増えているし、現にネットで発信するとあらゆる形で助けてくれる人がいて励みになる。今はほかにいないので“1人文具メーカー”と名乗っているが、このやり方が珍しくない日が来るかもしれないですね」(阿部さん)。

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