「Android端末のセキュリティロック解除時にフルスクリーンの広告を表示」――こんなシステムが発表された。サイバー・コミュニケーションズ(cci)がディー・オー・エム(DOM)と共同開発したこのシステムについて、製品統括を担当したcciの竹崎純司マーケティング・ソリューション本部長に話を聞いた。
――新広告システムの概要は。
Android端末のセキュリティロックを解除する際に、フルスクリーンのグラフィックが一定の頻度で表示される仕組みです。リリースでは、一言で「広告」と書いてしまいましたが、単なるバナーではなく、クーポンやポイントサービスなど、ユーザーに何らかのメリットがあるタイプを想定しています。毎回起動時に表示されるわけではなく、頻度の調整も可能です。
スマートフォンを起動する行為は、人によっては1日に数十回以上やることもある、おそらく生活の中で一番習慣的な動作。誰もが何度も繰り返し行うからこそ、必ず目に触れるからこそ、訴求できる広告は何かと考えてこのような形になりました。
――具体的にはどのような使い方を想定しているのか。
現在考えているのは、(1)広告を閲覧するとポイントがたまり、各種ポイントやギフト券に還元できるもの、(2)学習アプリの1機能として、起動するたびに簡単な問題と回答が表示されるもの、(3)GPS機能を利用し、場所や時間に合わせて近隣店舗などの情報を配信するO2O(Online to Offline)サービスに近いもの――の3つです。
閲覧でポイントがたまるタイプは「C4 coin」というアプリで実験的な運用を始めています。ロック画面解除後に表示される広告を一定時間見るとポイントが加算され、場所や時間帯によってボーナスが付与されます。現在はAmazonギフト券との交換のみですが、今後提携先の拡充も考えています。ある一定の場所の近くに向かうとボーナス、などオフラインでの活動を促進する使い方もできるかもしれません。
O2Oタイプはこの派生で、特に飲食店などにアプローチしていくことを考えています。時間と位置情報を利用し、居酒屋であれば「午後5時以降に半径500メートル以内にいる人」などでセグメントし、スマートフォンを立ち上げた瞬間にお得なクーポンとともに情報を配信する──といったことを想定しています。
学習アプリタイプは、9月下旬に高校生向けにリリースします。ロック解除時に画面に簡単な問題が表示され、スワイプで回答を確認する形式です。単語帳でスキマ時間に暗記に取り組んだように、スマートフォンの画面上で習慣的に“デジタル単語帳”を展開するイメージです。
学生向けには英単語や漢字、地理や歴史の暗記問題、社会人向けには外国語やワインなど趣味に関する知識、ITなどの専門用語などでコンテンツを作成する予定です。「トラベル英会話」であれば今お得な海外旅行、「TOEIC800点」であれば外資系の転職サイト、など学習の先にある目的に沿った広告を展開します。
――ターゲティングに活用されるユーザー情報はどのように取得するのか。
アプリのインストール時に、性別や年代などの情報を登録してもらいます。端末内のデータをクロールすることはありません。
――アプリではなくシステム自体の制御に関わるように見えるが、Googleのレギュレーションに照らしてマルウェアとみなされることはないのか。
抵触していないと理解していますが、明文化されていない部分、解釈による部分もあるので今後どうなるかは分からないというのが正直なところです。8月に更新されたコンテンツポリシーで禁止されたステータスバーや通知領域を使った広告表示とは、事前にユーザーに許諾をとる点と、アプリ内コンテンツに近い点が異なると考えています。
――今後の導入先の拡大は。
ニュースリリース文では説明が足りなかったのですが、当分は自社が中心となってアプリやコンテンツを作成していきます。スマートフォンの起動後画面はプライベートな部分ですし、ここに広告を表示すること自体ユーザーにも慣れない挙動になるので慎重に進めていく姿勢でいます。しばらくは、先の2つのアプリのユーザーの反応や手応えを見ながら今後の展開を模索します。アプリベンダーへのシステム導入やSDKでの配布は次の段階だと考えているので、「今まで使っていたアプリが突然仕様が変わった」ということは絶対にありえません。
もし既存のアプリに入れるとしても従来の広告仕様と選べることは必須とし、強制的に押し付けることはないようにします。例えば、ゲームの最中に常に広告が視野に入っているのと、それ以外の時間で何度かフルスクリーンの広告が表示される分ゲーム自体はストレスなく遊べるのと、どちらをより快適と感じるかは人それぞれだと思うので、判断してもらう段階を設けます。
――リリースには「スマートフォンのセキュリティロック解除時広告の新たな価値構築と市場拡大を目指す」とあるが、具体的には。
スマートフォンの広告市場は、ユーザーの接触時間を考えるとまだまだ規模が小さいのが現状です。広告モデルを確立し、アテンション相応のお金がきちんと流れる環境を作ることが、アプリ開発者やコンテンツホルダーはじめ、業界全体の発展・活性化になると考えています。
具体的な課題は表現力のなさ。PCよりも小さな画面の中で広告を訴求するのはどうしても制約が大きくなってしまいます。「C4 Coin」のフルスクリーン広告のサイズは760(縦)×480(横)ピクセルとかなり大きなサイズになっていて、既存のPC広告と変わらないクリエイティブを実現できます。アプリ内の広告と異なり、使用頻度に左右されず目に触れる機会も多いので、商品として魅力がありますが、もちろんユーザー心理との兼ね合いは課題です。
――「この仕組みを搭載した無料端末を売るつもりなのか」という意見もある。
現時点ではその予定はないです。
――ネットでは厳しい批判の声が上がっているが、今後の方針に影響はあるか。
誤解されている部分も多いので、一層丁寧に慎重に開拓していかなければならないと感じました。ユーザーにメリットを感じてもらいたい、“うっとうしい”広告をいかに価値のある情報として見せられるかを考えていますが、それでもどうしても使いたくない人は出てくるはず。新しいスタンダードに、というより、「スマートフォン広告」の選択肢を増やしたいという実験的な思いです。正直うまくいくかは未知数ですが、挑戦する価値はあると思っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR