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「お金がかかるのは変」 無料の受験動画サイト「manavee」作った東大生 プログラミング未経験から5万人が使うサイトに(2/4 ページ)

» 2013年11月22日 09時33分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 講義の撮影に使っているビデオカメラ

 自分の講義には早々に見切りを付け、講師になってくれる学生を探した。人付き合いが苦手で、大学の友人は2人しかいなかった。2人とも講師になってくれたがまったく足りない。講義で見かけて印象が強かった学生に、片っ端から声をかけて勧誘した。

 影も形もないサイトに興味を持ってくれる人は少なく、勧誘のたびに「ボコボコに論破された」。「ビジネスモデルは?」。そう聞かれることもあった。「僕は分かった感じで答えるんです。『広告モデルとかね』『最近はフリーミアムというのがあるんだ。君は『フリー』を読んだかい?』とか」。よく分かっていない大学生同士が、よく分からないまま会話していた。

 朝は大学の空き教室で講義を撮影し、昼間は講師を勧誘し、夜はサイトを構築した。食堂での夜から1カ月と1日経った11月8日早朝、ついに「manavee」を公開。薄い灰色の背景に水色のリンクが並ぶだけの単純なつくりで、数学と古文、世界史のビデオがそれぞれ5つほど。トップ画面には大きな字で、「manaveeはネットに無料の東進をつくります」と書いた。「しょぼいサイト」だと自分でも分かっていた。

 その日のアクセスは数十。「ほとんどが僕だった」

当初は講師にお金を払っていたが……

 「東大生の無料の動画が100個あるサイトって、すごくない?」。最初はそう考えていた。勧誘を繰り返して5人ほど講師を集め、毎日ひたすら動画を撮ってはアップし、2カ月で100動画を達成。協力してくれた東大生を招き、手料理で記念パーティを開いた。

 1人からこう問われた。「これからどうするの? 起業するの? ただの学生団体のお遊びなの?」。答えは出せなかった。起業は怖かった。でも「遊びじゃない」と思っていた。本気を形にしようと、講師にお金を払うことにした。1講義1000円。当時のアルバイトで稼げたのは月数万円。資金は半年ほどで尽きた。

 「ごめんなさい。もう払えません」。講師に謝り、借金をチャラにしてもらった。当時の講師は十数人。1人は辞めてしまったが、ほかは残ってくれた。「その時に初めて、人はお金だけで動くんじゃないと知ったんです」

 無料でも講義したいというモチベーションが彼らにはあった。教師を目指していて講義の練習をしたいとか、格差のもとに生まれ、後輩に同じ苦労をさせたくないとか、自分の知識を維持・披露したい――など。彼らのモチベーションを維持し、刺激するためのマネージメントやシステム作りが必要になってきた。

独自のグループウェアで講師を管理 「システムは、僕の後ろにいる巨人」

 講師は東大以外にも広げた。友人のつてで慶応大学を訪れ、東日本大震災が起きると東北大学に行った。キャンパスでビラを配り、興味を持ってくれた人にビジョンを語り、撮影やアップロードの手法を伝えた。今では約30大学、約260人の学生が、講師やマネージメントスタッフとして協力してくれている。

新入生勧誘用に作った動画

 協力者が全国に広がると、連絡や連携が難しくなってきた。「ただの烏合の衆ではまずい。みんなを気持ち良く1つするには」――スタッフ同士で近況を共有できるオンライン掲示板を構築。オンラインに撮影カレンダーも作った。

 撮影カレンダーは花房さんの負担を激減させた。講義動画は講師同士で撮影し合うのだが、講師から予定を聞き取り、同じ日時が空いている人を組み合わせ、お互いに連絡をし、撮影のリマインドメールを送るといった作業は花房さんの役割。オンラインカレンダーはそれをすべて肩代わりしてくれたのだ。

画像 講師用システムトップページ。講義を視聴している生徒の状況がリアルタイムで分かる。ウォールには「いいね!」のような機能「はむはむ」も。花房さんオリジナルの用語で、シビアなコミュニケーションの際に空気を柔らかくしたり、コミュニケーションのきっかけに使われる

 「システムはまるで、僕の後ろにいる透明な巨人。僕のうしろでメールをわーっと援護射撃して助けてくれているイメージなんです」

 講師用システムには撮影や講義のマニュアル、掲示板やタスク管理機能、Wikiなども整備し、グループウェアと呼べるほど多機能になってきた。キャンパスごと、個人ごとに、動画のアップロード数や遅延しているカリキュラム数が表示されるなどタスク管理も可能になっている。


画像 キャンパスごとの目標管理も
画像 個人の活動履歴もチェックできる

画像 講義の登録は、動画をドラック&ドロップするだけ

 手動だった動画の登録も自動化した。動画ファイルをWebフォームにドラッグ&ドロップするだけで自動でYouTubeにアップロードされ、Amazonのクラウドにもバックアップされる仕組みだ。

 オンラインだけでも仕事を完結させられるようになった今でも、花房さんは対面を重視。新メンバーには必ず会い、直接ビジョンを伝える。「会わずに信頼関係を築くのも可能だとは思うが、時間がかかったり難易度が高い。対面すれば、信頼関係はすぐに築けるから」

組織化で役割分担、目標管理も

 当初は1日数十PVしかなかったmanaveeだが、有名ブログやテレビ番組で取り上げられて利用者が拡大。学生だけでなく社会人も協力してくれるようになり、講師やマネージメントを手伝ってくれるスタッフは総勢約270人にふくらんでいる。

 全員が一丸となって運営できるよう、組織化も進めてきた。大学ごとに「キャンパス」と呼ばれるチームを作り、「キャンパスマネージャー」が目標管理やイベントなどを統括。キャンパス内の講師同士で撮影しあったり、講義の改善策を話し合ったりする。「英語会」「国語会」などキャンパスをまたいだ科目ごとのチームもあり、経理や法務、広報を担当するスタッフもいる。

 manaveeで勉強した高校生が大学生になり、manavee運営に関わってくれることも。今年は7人ほどの新入生が加入しており、「manaveeの継続性を担ってくれるのは彼らだ」と花房さんは期待。新入生に責任感を持って役割を担ってもらうためにも、しっかりとした組織とシステムを準備していきたいという。

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