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「お金がかかるのは変」 無料の受験動画サイト「manavee」作った東大生 プログラミング未経験から5万人が使うサイトに(3/4 ページ)

» 2013年11月22日 09時33分 公開
[岡田有花,ITmedia]

「僕1人の作品」を超えて コードをドキュメント化へ

 「僕なしでもまわる組織にしたい」――広報や経理など、当初は花房さんが1人で担っていた役割のほとんどは今、ほかのメンバーに任せているが、1つだけまだ、1人で抱え込んでいることがある。システム構築だ。

 「manaveeはまだ僕が全部キー握っていて、僕に何かあれば止まってしまう。それはよくない」と自省しながらも、manaveeのコードは「僕にとって“作品”になっちゃってる」から手放せなかったという。

 プロダクトではなく作品だから、興味のあることから手をつけてしまい、優先順位順に構築できない。コーディングに集中し、何かを作り上げると大きな達成感があるが、「manaveeは5万人が利用するサービス。僕が自己満足に浸っていてはいけない」。

 今、プログラミングも自分の手から離そうとしている。現在のコードは、自分なりのラッピングをしたフレームワークで作った「オレオレ仕様」だが、今後ドキュメント化・平準化を進め、花房さん以外でも開発ができる体制を整える予定だ。

「劣化版予備校」ではなく、「講師のAKB48」に

 未経験のボランティア講師が無料で授業を公開するmaanveeは、「劣化版予備校でしかないのでは」と悩んだこともある。学生は本当は、カリスマ講師の講義を受けたいのではと思っていた。

 だが学生に聞いてみると、カリスマ講師の講義を嫌う生徒もいることが分かった。「授業のうまい先生がいい」「雑談のおもしろい先生がいい」「ていうか私あんまり授業自体好きじゃない」――好みは多種多様で、「結局は相性次第」と気づいた。

画像 講師のタグ一覧。「まじめ」「ちょいワル」「仙人」「非リア」「癒し系」「アキバ系」など個性的な文言が並ぶ

 manaveeが今目指すのは、誰もが相性の合う講師と出合える場所。予備校のカリスマ講師が「正規分布の真ん中をぶっこ抜く」存在だとすれば、manaveeが目指すのは、講師のロングテールだ。「同じことを10人が教えてたら、『この講師とこの講師はクソ、でもこいつは“ネ申”、こいつ推し!』ってなる。講師のAKB48にしたいんです」

 manaveeには、「まじめ」「ちょいワル」「非リア」「癒し系」など講師をタグから選べる機能がある。年内のリニューアルでこの機能を強化し、「無料で受験勉強できる」サイトから、「あなたの好きな先生が見つかる場所」に変えていく計画だ。

動画が取得できませんでした
花房さんが「大好き」という東大理科系三類の講師。講義の内容が高度すぎて一般受けはしないが、卓越した数学知識で数学好きの学生に人気という

 既存の受験産業は、親のためにあるとも気づいた。経験豊富なカリスマ講師や合格実績をアピールするのは、「お母様方を安心し、親のサイフを開くための安心材料」でしかない。親のサイフを経由しないmanaveeなら生徒が直接、自分に合った講師を選べる。

 今でも約200人の講師が集まっているが、科目に偏りがあったり、コースによっては動画がまったくないなど「まだまだ足りない」と思っている。さらに多くの講師を集められるよう「カミオカンデのように」間口を大きく広げつつ、受け入れ体制を強化したいという。

資金は自腹 寄付や協賛募るが「厳しい」

 講師は無償ボランティアだが、サーバ費用やカメラ代、ビラのコピー代など月数十万円の出費があり、花房さんがSEやシステムコンサルティングの仕事を受けて費用をまかなってきた。全国に飛び回り、講師を勧誘する合間にも、漫画喫茶にMacBookを持ち込んで開発。「できないこともできると言い張って」コンペに勝ち、仕事をぶん取ってきたこともあるという。

 花房さん1人に頼る収益構造はあまりにも脆弱だ。今年4月からは寄付金の受け付けを開始。月間2〜3万円、メディアで紹介されると10〜15万入ることもあったが、それも徐々に減ってきた。企業から協賛金を得ようと企業訪問を続けるが、「厳しい」という。「僕はコネもないし、腰を低くできないし、ネクタイの結び方覚えられなくて、年上のおじさまに好かれないから……だと思うんですけど」

 サービスは完全無料を貫き通す。サイトに広告を貼ることも「絶対にやらない」と決めている。manaveeのユーザーにはネットリテラシーが低い人もおり、華美な広告が出るとクリックしてしまうかもしれない。広告に気をそらされて勉強が中断してしまっては意味がない。

 manaveeの講師を対象にしたビジネスは検討している。講師用システムに広告を掲載したり、講師を人材として企業に紹介するなどだ。「講師はいい大学の学生で、無償で一生懸命講義をする人達。リクルートスーツを着て15分間ウソをまくしたてる就活生よりよほど信頼できると思う」

 お金にならない現状は「幸せな状況」でもあると考えている。「潤沢な予算が入ると、間違えちゃう人が出る危険性を警戒している。お金のためにやり始めたら、一瞬で世界が崩壊する」

受験教育すべてをボランティアベースに載せたい

 立ち上げ当初と比べると、教育産業も変わってきた。リクルートの「受験サプリ」など、無料で受験対策コンテンツを利用できるサービスも出てきており、「無料で勉強できるサイトが当たり前になってきた」。

 manaveeは無料の受験動画サイトでは終わらない。大学生という「潤沢な社会的リソース」を活用し、学生が相談できるチューターを整備したり、一緒に学びあえるバーチャルな「教室」を作るなど、受験教育にまつわるすべてをボランティアベースに載せ、無料教育のムーブメントを作り出すことが目標だ。

 「『予備校費用が高いんだよ』と困る受験生がいれば、『じゃあmanavee使えば』と言える状況を作りたい」

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