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浅田真央選手の軌跡を描く朝日新聞デジタル「ラストダンス」ができるまで 新聞社にしかできないコンテンツ目指して(3/3 ページ)

» 2014年03月07日 13時58分 公開
[山崎春奈,ITmedia]
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圧巻の演技、公開までの怒涛の24時間

 21日未明、女子フリー。浅田選手が「自身の集大成」と何度も語っていた演技のテーマは「今までの人生」だった。深夜1時過ぎ、古田さんは前日と同じように社内のテレビを見つめた。4分超の演技を終え、彼女は泣いて、笑った。「完成した」。ラストを飾る浅田選手のアップの写真は1枚の予定だったが、2枚に変更した。「うれしかったです。うれし泣きと笑顔と、同じ意味だと思います」「自分の中で最高の演技ができ、たくさんの方に恩返しができました」――試合後のコメントから、2つを選んだ。

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 明朝、現地から送られてきた浅田選手の写真は数百枚。表情や動きに変化がつくよう選び抜いた34枚の写真によるスライドショーは演技の時系列順に並べている。1枚5秒、約3分。演技に使われたラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」をBGMに、彼女の言葉を振り返りながら、読者自身の頭の中で4分の演技を再生してほしかった。映像ではなく写真で振り返るからこそ、一瞬ごとの美しさを堪能できる。試合後に実際に投げ込まれた花束の写真の1つを末尾に加え、「ラストダンス」は完成した。

「新聞がネットでできること、やる意味のあることがちゃんと形に」

 競技終了から約24時間後の22日未明、ページを公開した。週末を迎えたばかりの深夜にもかかわらず、公式のアナウンスを待たずにじわじわと広がっていった。「すごいものができてる!」「演技を思い出しながら泣いてしまった」「新聞がネットでできること、やる意味のあることがちゃんと形に」――TwitterやFacebookで拡散の輪は広がっていった。

 3日間で100万PVを超え、うちスマートフォンからのアクセスは65%を占めた。ユニークユーザー(UU)がPVの半分以下の40万に留まったことも特徴で「スマートフォンでアクセスして『あとでPCの大きな画面で見よう』という人、最後まで見終わってから『もう1度最初から』と複数回読む人が多かったようだ。PVのインパクトも大きいが、離脱率が低かったことも印象的」(古田さん)

photo 最後まで細かい修正が続いた
photo 演技写真は時系列順に

 SNS上をはじめ、社外からの反響は大きい。古田さんは「マスコミはどうしてもネット上では悪く言われることが多いじゃないですか、『朝日新聞、やるじゃん』という声はうれしいですね」と笑う。過去の膨大な資料や記事と、デザインや写真を含む各分野のプロフェッショナルを抱える新聞社の強みを十分に生かせた点で社内的にも意味があるプロジェクトだったと言う。今後、社内の他部署ともさらに連携を深め、次につなげていきたいと先を見据える。

長年の資産をデジタルに“翻訳”する責務

 同社を含め、世界各国のメディアは無料・有料の会員制度を含めたWeb版のマネタイズの方向を模索している途中だ。「ラストダンス」に寄せられた感想は通常のニュースへのリアクションに比べ、若年層や女性のコメントが目立つなど、既存読者と異なる層にリーチできた手応えがあるといい、「リッチコンテンツは有料で」ではなく、まずは知ってもらうこと、親しんでもらうこと、「マルチメディア企業」として認識されることを目指していきたいという。New York Timesも、続々と発表する特集ページの多くを無料で公開している。

 「紙面でできないことをWebで、と言ってもなかなか体感的に理解してもらうのは難しい。メディアのデジタルへの対応は独立して存在するわけではなく、長い歴史の中で培ってきた資産をどう“翻訳”し活用するかが僕たちデジタル編集部の腕の見せどころ。新聞社だから生かせるデータ、できる表現を追求したい」(古田さん)

photo デジタル編集部の白井政行さん、古田大輔さん、佐藤義晴さん(左から)
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