――CDに代わる音楽流通の形は1つではないが、世界で定額制サービスが急伸している背景は。
リンCEO 2000年代中盤から7〜8年ほどはiTunesが急激に台頭し、1曲当たり99セントで音楽をダウンロード購入するのが当たり前になりました。ところが昨年くらいから、iTunesの売り上げも横ばい、もしくは若干下がりつつあります。一方、定額制サービスの売り上げは伸びているのです。
これは人々が音楽を購入することに飽きたとか、10曲ずつ買うのに疲れたということではなく、理由は別のところにあると思います。
消費者の立場になってみると、99セントあれば楽曲を買うこともできるし、スマートフォンでゲームのアイテムを買うこともできます。つまり人々にとっては「楽曲を買うかどうか」だけでなく、エンターテインメントという大枠の中で「自分の可処分所得をどう配分するか」という問題になっているのです。
実際、人々がスマートフォンで使うお金の内訳を見ていくと、音楽よりもはるかに大部分がゲームアイテムの購入に使われています。音楽はいまやゲームを含む全てのエンターテインメントと競合しているとも言えるでしょう。
では、その中でなぜ定額制サービスは成長しているのでしょうか。それは、人々の間で「アクセス権にお金を払っている」という認識が高まっているからです。月に一定の金額を払えば、いつでもどこでも好きな音楽を選べる。そういうコンセプトがユーザーに多くの自由と選択肢を与え、人々もそれに適応してきたのだと思います。
――定額制サービスは、CD購入/ダウンロード購入のように「音楽コンテンツを所有する」という概念がない。これにユーザーは抵抗を感じていないのか。
リンCEO そもそも、音楽とは本当に所有することができるのでしょうか? CDを持っていれば「所有している」気がするかもしれませんが、それは単にプラスチックを所有しているだけではないでしょうか。そもそも、今の若い人たちはCDを持ってすらいないので、音楽を所有するという考え方自体に慣れていません。
1つ例を挙げましょう。フィットネスクラブの有料メンバーになれば、トレッドミルなどの機械を自由に使ったり、シャワールームを使ったり、専門トレーナーをつけたりといろいろなことができますよね。しかし、トレッドミルなどの機械を自分で購入して自宅に置いておく人がどれだけいるでしょうか?
これと同じことが、定額制/ストリーミングサービスにも当てはまると思います。デジタル楽曲も数が増えれば管理するのが大変になりますよね。そこで私たちが売っているのは所有権ではなくアクセス権なのです。膨大なライブラリがあり、そこにお手頃な価格で自由にいつでもアクセスできる権利を売っているわけです。
しかし一方で、例えば「ものすごくこの曲が大好き」「このアーティストが大好き」「このアーティストのライブチケットを入手するにはCDを買わなくてはいけない」という人もいるので、CDが全く無意味になることはないでしょう。ただ、CDはますます“コレクション”としてみなされるようになっていくと思います。
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