――KKBOXが普及しているアジア諸国などと比べて、日本でサービスを展開する中で難しい点は。
リンCEO まずはコンテンツ面ですね。日本国外の国ではレーベルから最新コンテンツを入手してすぐにユーザーに配信していますが、日本ではそれができていません。先ほどのフィットネスクラブの例になぞらえれば、月額料金を支払っているにも関わらず最新のマシンを使えない、最新のプログラムを利用できない――という状況が日本にはあります。
この状況がもしこのまま続いていくようなら、日本のユーザーはせっかく定額制サービスの利用を始めても「聴きたい最新の音楽がない」とがっかりして使わなくなってしまうでしょう。そういう意味で、これは大きな問題だと感じています。
もう1つ難しい点はビジネスモデルです。日本以外の国では月額有料会員プランはもちろん、それとは別に週次課金モデルや、1日ごとの料金プランも用意しています。日本でサービスを普及させるためにはこうした柔軟なプランが必要ですし、われわれも懸命に日本のレーベルに働きかけています。
――日本のレーベルの考え方は変わりつつあるのか。
リンCEO うーん……(2秒ためて)そう思います。一部では非常にアグレッシブにとらえてくれているレーベルもあります。確かにペースが遅いところもありますが、遅かれ早かれいつかは同じ結論に至ると考えています。
――レディオヘッドのトム・ヨークは昨年、Spotifyに対して「アーティストへの支払いが少ない」と批判していた。アーティストやレーベル側に定額制サービスのメリットはあるのか。
リンCEO 非常に難しい質問ですね。もしSpotifyのような定額制サービスがなくなったらアーティストの収入が上がるか、それとも下がるのか。これを実証することは誰にもできません。
確かに定額制サービスに批判的なアーティストはいます。一方で、これらのサービスを採用しているアーティストもたくさんいます。その選択が正しいかどうかは誰にも証明できないので、今はまずやってみて、そこから学ぶということが必要なのだと考えています。
音楽には著作権がありますから、アーティストやレーベル側はいつでもiTunesやSpotfy、KKBOXでのコンテンツ配信を停止することもできます。ただしわれわれとしては、音楽はもっとアクセスしやすいものになるべきだと思っています。
1つ例を挙げると、東京に電車や地下鉄がなく、A地点からB地点に行くためにはバス、タクシー、バイク、自転車、自家用車しか選べなかったとします。果たしてこれで、東京のアミューズメントパークや商業施設の収入は増えるでしょうか? これと同じことが音楽業界にも当てはまると思います。
音楽はより多くの人に触れてもらうのが重要ですし、インターネットを使えばアクセスしやすくなるのは間違いありません。今はまだなじみのないビジネスモデルだとしても、長い目で見れば、レーベルやアーティストにとっても自分たちのコンテンツの価値を高めることになるはずです。
――ライバルのSpotifyは「日本でのサービス利用は現在準備中」と公式サイトで告知している。大手サービスの日本進出についてどう見る。
リンCEO 当社としては、Spotifyにも日本にできるだけ早く進出してほしいと思っています。なぜならレーベルに働きかけるのはわれわれ1社では無理で、なるべく多くのプレイヤーで手を組んでやっていく必要があるからです。そういう意味で、われわれはSpotifyの日本進出を歓迎します。
――日本は世界的に大きな音楽市場であるにも関わらず苦戦している。今後、日本の音楽市場はどう変わっていくか。
リンCEO これからも大きな市場であり続けると思いますし、正しい方向、正しいやり方を身につければ世界ナンバーワン市場になることもあり得ると思っています。
これは単に日本におべっかを言っているのではありません。なぜなら日本人の消費者は「高くてもいいものにはきちんとお金を払う」という強い意志があるからです。実際、世界で最も売り上げが大きいスマートフォンアプリは「パズル&ドラゴンズ」ですからね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR