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「デザインにこだわる」とはどういうことか――Webブラウザ「Sleipnir」と歩んだフェンリルの10年

» 2014年07月31日 10時00分 公開
[山崎春奈,ITmedia]

 「デザインと技術でハピネスを」──国産Webブラウザ「Sleipnir」をネット黎明期から10年以上に渡り開発し続けているフェンリルの企業理念だ。印象的な言葉「ハピネス」は、単に見た目が整っているだけでなく、人の感情に訴えるものこそ美しいデザイン――という意味の言葉だという。デザインから始まるプロダクト開発にこだわり、日本のWeb業界で独自の立ち位置を築いてきた同社の、これまでとこれからを聞いた。

photo PC版 Sleipnir

 ネットユーザーの声を集めたWebブラウザ「Sleipnir」を、柏木泰幸社長が個人でリリースしたのは2002年のこと。柔軟なカスタマイズ可能な仕様、安定性・安全性などが評判を呼び、個人開発のブラウザながら人気を集めた。さらなる広がりを目指して05年に法人化したのがフェンリルだ。現在はPC版だけでなく、Android/iPhone/iPad用のアプリ版も提供しており、全世界累計5000万ダウンロードを突破している。

「今いるユーザーにもっと快適に感じてもらえるように」

 Sleipnirのこだわりとして、牧野兼史CEOは「デザインの美しさと、操作の気持ちよさ」をあげる。昨年秋にリリースしたバージョン5ではデザインを大幅に刷新。独自のフォントレンダリングによる読みやすい文字表示、タブのサムネイル表示、「戻る」「進む」「ウインドウを閉じる」などのマウスジェスチャー――など、タッチパネルデバイスも意識して使いやすさを追求した。

 デザイナー、エンジニアをはじめ長年に渡り愛用しているユーザーも多く、これまでの各バージョンを自分好みにカスタマイズして愛用しているユーザーを大切にしたいと、2〜4の過去バージョンもダウンロードできるよう残している。近年はスマホアプリから初めて触れるケースも増えており、積極的に新規ユーザーに届けていきたいという。

 「当時は珍しかったタブブラウザも当たり前になった今、大手企業のWebブラウザとガチンコしても仕方がない。誰もが使うシェアナンバー1が目標ではないので、今いるユーザーにもっと快適に感じてもらえるよう日々進化させていきたい。技術的に新しいことや機能を追加していくこと、要望に応えることが進化ではなく、常に理想を求めて取捨選択」(牧野CEO)

 Sleipnirをコアとする自社プロダクトと並ぶ、現在の事業のもう1つの柱が共同開発。日本にiPhoneが上陸した直後の08年秋からアプリ開発を請け負っており、「テレ朝 news」「ジャンプカメラ!!」「Field Pad」など、有名企業のアプリを多数手がけている。

photo フェンリルの手がける共同開発アプリの一部

 アプリ制作会社が多数ある中で同社が選ばれる理由は「ユーザーやクライアントに真面目に向き合い、流行に流されずに一緒になって解決策を探すこと」と牧野CEOは話す。仕様通りに開発するのがゴールではなく、ニーズを把握した上で期待を超えるものを作るために“デザインは問題解決のツール”という思想が生かされているという。

 Webサービスのアプリ版やコンシューマー向けのツールのほか、依頼が増えてきているのが業務用アプリだ。不動産や流通、製造業など非IT企業への導入も多い。「社内システムをアプリにすると考えるとどうしてもPC版の移築という発想になるが、スマートデバイスだからこそできるUIや動きはまだまだあるはず。アプリ“ならでは”のできることを考えていくのはこれからの話で、むしろまだ市場としてスタートしたばかり」(牧野CEO)

「会社の器」

photo 牧野兼史CEO

 大阪に本社、東京と島根にも拠点を置く同社の社員は現在計130人。今年度から新卒採用を始めており、会社の文化を伝えていくフェーズになった――と意識しているという。トレンドの移り変わりの早い激動のWeb業界で10年間会社を続けてこられた秘けつを聞くと、「会社の器」という言葉が飛び出した。

 「創業から数年経って事業がやや停滞した時期、管理部門の人を減らしたりオフィス環境を変化させてコスト削減したが、あとから考えると失敗だった。まずは社員が気持ちよく働けること、その環境を支えてくれる人がいることが絶対必要。目先の利益だけでなく、“会社の器”に余裕があることが次の成長につながるのだと思う」(牧野CEO)

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