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バーチャル三波春夫「ハルオロイド・ミナミ」をオーディションしてみた(2/2 ページ)

» 2016年10月20日 18時40分 公開
[松尾公也ITmedia]
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バーチャル三波春夫に歌ってもらった

 さっそく歌ってもらった。演歌歌手はバーチャルの世界でも珍しくなくなっている。CeVIOで2人、VOCALOIDにもSachikoがいる。SachikoはHMMにより本人ライクな歌唱プラグインまで持っている凄腕だ。それでもハルオロイドの中の人である三波春夫は20世紀最強の歌手。期待が高まる。

 ゼロから組んでいく時間がもったいないので、もともと銀咲大和向けに入力していたプロジェクトファイルを流用。ピッチ、ダイナミクス、音色の遷移で不自然な部分だけ加工してみた。曲は井上陽水の「小春おばさん」。YouTubeで公開している。

 同じ演歌歌手といっても、銀咲大和はアタックが弱く、音の減衰が早いタイミングで行われるのに対し、ハルオロイド・ミナミは音の出だしが明瞭でガツンとくる感じで、そこは三波春夫らしさを感じる。音を伸ばしているところでは音色が大きく変化してビブラートの振幅は比較的大きいところも本人に近い。ただ、ところどころ一本調子なところがあり、そこがロボっぽく感じてしまう。そういうところは音色・音量・ピッチなどのパラメータを調整することである程度は抑えることができる。

 発音やビブラートのかけ方に大きなクセがないので、最初から三波春夫の声だと言わなければ、普通に使いやすい男声音源となるのではないだろうか。声は若々しい。設定で37.3歳となっていたから、その当時の音源を使用したのかと一瞬考えたのだが、37.3(ミナミ)のダジャレと後で気づいた。

 三波春夫独特の「ハァーーーー」と自在に音程を変化させる浪曲的アーティキュレーションもこぶし回しはデフォルトではない。ピッチ調整やビブラートの振幅などを調整してそれ風に仕上げることになる。それほど難しくはないけれど。

 そうした表現を試すために、PlayStation VRがなかなか手に入らない哀しみを歌ったオリジナル曲「PS VRない音頭」でバーチャル三波春夫に登場していただいた。出だしのところは結構それっぽいのではないだろうか。

photo 「ハァーーーー」の途中でPIT(ピッチ)を極端に揺らしてみた

浪曲、演歌からアニソン、ハウス、ロックンロールまで

 三波春夫の長女で、コンテンツ管理会社の代表をしている三波美夕紀さんは、ハルオロイドは三波春夫の歌藝の宣伝マンという位置付けだと説明しているが、その役割は十分に果たせそうだ。三波春夫本人の歌唱の技を知るために音楽ストリーミングサービスで提供されている126曲を聴いていくと、その音楽性の幅広さに驚く。「HOUSEおまんた囃子」「しんちゃん音頭」「銭形マーチ」「世直しロックンロール」……。バーチャルから入って、本物を知りたくなるし、その歌に込められた背景も知りたくなる。

 故人の歌声を蘇らせること自体は、VOCALOIDでは植木等、hide、UTAUでは自分も妻の歌声を再現しているが、ハルオロイドでは2001年に亡くなった三波春夫をバーチャルシンガーとし、それを無償で誰にでも使える形で配布している。誰も踏み込めていない未知の領域だ。

 しかし、英断した理由もわかる。ハルオロイドの無償公開により、歌手・三波春夫が日本中の家に居ついて、歌ってくれることになるのだ。

 これはもう、神様になったと言っていいんじゃないだろうか。

 神様にオーディションとか生意気なこと言ってすみませんね。次からは好きそうな歌をちゃんと考えますんで。

追記:おもしろすぎるのでさらに2曲歌っていただいた。ささきいさお「真っ赤なスカーフ」と大瀧詠一「君は天然色」のカバー。

 歌藝の神様は気に入っていただけるだろうか。

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