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視覚障害児もプログラマーに Microsoftが新ツール

» 2017年03月27日 13時45分 公開
[大村奈都ITmedia]

 タブレット端末の画面上でカラフルなパーツを配置していくと、それがコンピュータのプログラムになる――そんな教育向け「ビジュアルプログラミング」が話題だ。条件分岐やサブルーチンを目に見える形で表示し、子どもたちに教えるビジュアルプログラミング言語には、大きな可能性がある。しかしそこには、意外な「盲点」もあった。視覚障害のある子どもを置き去りにしてしまうのだ。

 米Microsoftはこのほど、公式ブログで「プロジェクト・トリノ」を発表した。このプロジェクトの核は、フィジカル(身体的な)プログラミング言語だ。ビジュアル(視覚的)ではないフィジカルなプログラミング言語は、ポッドと呼ばれるパーツを接続することで、手でさわれるプログラムを作る。プログラミングの結果として、音楽を鳴らしたり、歌詞付きの歌のようなものを流したりできるという。

 これにより、従来のビジュアルプログラミングと同等の教育に、視覚に障害のある子どもたちも参加できる。「カラフルで分かりやすい」というビジュアルプログラミング言語の特徴も兼ね備えているため、子どもたちは障害の有無にかかわらず、ともに学べるのだ。

photo プロジェクト・トリノのツールを用いてフィジカルプログラミングをする13歳と10歳の子どもたち(出典:Microsoft公式ブログ)

 プログラミング言語は、英ケンブリッジにあるMicrosoftの研究所が7〜11歳の子どもを対象に開発した。研究チームの一員であるセシリー・モリソン氏は、「プロジェクト・トリノのキーワードは、インクルージョン(包含)です。われわれは、子どもたちを二度と独りぼっちにさせたくないのです」と語った。

 プロジェクトのさらなる目標は、より多くの子どもにエンジニアやコンピュータサイエンスの専門家への道を開くことだ。視覚障害だけではなく、失読症や自閉症といった各種の障害を持つ子供が対象となる。「コンピューティングは大きな職業訓練の機会です」と彼女は言う。

 このプロジェクトは、視覚などに障害を持つ人にとってはキャリアパスを見つける機会を増やす手助けになる。それと同時に、MicrosoftをはじめとするIT企業にとっては、エンジニア人材を確保することにもつながるという。

 世界保健機構(WHO)の統計によると、全盲または視力に障害を持つ人々は、世界中で2億8500万人に達するという。その多くは低収入にあえいでいる。英国王立盲人協会の調査によると、労働可能年齢の全盲および視覚障害者のうち、十分な収入を得ている人の割合は、4人に1人に過ぎないという。王立盲人協会は、コンピュータサイエンスは視覚障害者にとって有望なキャリアパスであるとして、このプロジェクト・トリノにも協力している。

 最近のプログラミングは絵やグラフィックやイメージを用いることで、視覚障害のある子どもを遠ざけてしまっていた。プロジェクト・トリノはその解決になるかもしれないと、王立盲人協会のスティーブン・タイラー氏は期待している。

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 教育者の経験があるタイラー氏は、これまでは子供たちに戦略的な思考を身につけさせるために、立体的な駒を扱うチェスを活用してきた。これからは、プロジェクト・トリノがその役割を果たすだろう、と期待している。

 プロジェクト・トリノの各種ツールは、実際に使った子どもたちのニーズを受けて“成長”するようにできている。彼らがフィジカルプログラミングを習得したら、書き上げたコードをテキストベースのプログラミング言語に変換するアプリケーションも用意されているという。

 「われわれは、フィジカルプログラミングからプロのエンジニア向けツールまでの道筋を用意しています」とモリソン氏は話している。

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