「昔からやりたいと思っていることがあった。それがマストドンならできるのでは──」
画像SNS「pixiv」を運営するピクシブ社内で4月25日、同社が立ち上げたマストドンのインスタンス「Pawoo」の運用と開発技術などを語るイベント「pixiv Night #4」が開かれた。ぬるかる(@nullkal)さんが運営する「mstdn.jp」とともに、マストドンインスタンスの中では世界最大級のユーザー数を抱えるPawoo。ピクシブがこれを開くことになった経緯や、実際に運用してみて直面した課題などが語られた。その内容を2回に分けて紹介する。
「Pawooのこれから」を語ってくれたのはピクシブのリードエンジニア、Pawoo プロダクトマネージャーである清水智雄(norio)さんだ。「マストドンのインスタンスを立てようと言い出したのは私」だという清水さん。なぜマストドンなのか、マストドンで何ができるのか、そしてこれからPawooをどうしていくのかを明かす。
マストドンの特徴は、何よりも脱中央集権の思想を持ったSNSであるということだ。TwitterやFacebookなど、一企業に全てを委ねる中央集権的な既存のSNSとは異なり、世界中の誰でもサーバにマストドンのインスタンスを立てて運用でき、それぞれのインスタンスが「連合タイムライン」という形でゆるくつながっているのがマストドンだ。
清水さんが面白いと思ったのは、こうした「脱中央集権」思想と、そこから副次的に生まれた「ローカルタイムライン」だった。
ローカルタイムラインはそのインスタンスに登録した全てのユーザーのトゥート(投稿)が見られるタイムライン。ユーザーはある興味を持ってそのインスタンスに登録することが多いため、結果としてローカルタイムラインは一定の興味・関心の方向性を持ちやすくなる。
こうしたマストドンの仕組みは、過去にあった掲示板サービスや、今のTwitterとも違うと清水さんは言う。
掲示板は確かに興味・関心で集まるユーザーを分けられたが、掲載されるコンテンツは静的でリアルタイム性に欠けていた。Twitterにも以前はパブリックタイムラインという全ユーザーのつぶやきが見られる仕組みがあったが、世界中のあらゆる人々が登録して使うため、パブリックタイムラインを見ていても各ユーザーが異なる文脈のことをつぶやいており、内容に共感するのは難しかった。
一方、マストドンのローカルタイムラインは、先にも触れたようにそのインスタンスの特徴に合った人たちが集まり、トゥートが流れてくるため見ているだけでも楽しい。Twitterは誰かをフォローしない限りはツイートが流れてこないが、マストドンは登録した瞬間からローカルタイムラインの様子をのぞいて雰囲気を知ることができる。
「何かに似ているな。マストドンのインスタンスって、渋谷や秋葉原のような“街”なのではないかと思いました。もっと言えば、歩行者天国。大道芸人やパフォーマーを見ているだけでも楽しいし、自分も何かやれば見てもらえる。そんな印象をローカルタイムラインから感じました」と清水さんは話す。
「昔からやりたいと思っていることがありました。若者文化は場所と人から生まれてきたという話があります。60年代、70年代は新宿が若者文化の発信地。新宿に集まる人たちから文化が生まれた。その後原宿、90年代は渋谷、そして秋葉原で萌えやアイドルという文化が生まれてきた。その次がどこだったかというと、Webだと思います。なら、場所に根付く文化をWebでできないかと思っていて、そんなサービスができたらいいんじゃないかと。既にTwitterやFacebook、ニコニコ動画やpixivがそういう場所だと言えばそうなんですが、それぞれ扱っているコンテンツや形式が違います。そこで、ある程度統一された規格上にある場所に人が集まって文化が生まれたらいいなと、なんとなくずっと思っていました」
そんな思いを持っていたところにマストドンというものが現れて、「これはやるしかない」と、ほとんど勢いで始めたという。
「ピクシブは創作活動を支えることをミッションとしています。そのためなら何をやってもいいことになっていて、作品発表の場として『Booth』『pixivFACTORY』『pixiv Sketch』などを提供してきました。それらに加えて創作活動の場もサポートしていきたいという思いがずっとあり、マストドンはそれになり得るプラットフォームなのではないかと考え、ピクシブとしてやろうということになりました」
4月14日に公開して2週間ほどたった今、Pawooのユーザー数は約9万人。この間にPawoo開発チームは、pixivアカウント連携(pixivのアカウントでPawooにユーザー登録・ログインできる)、メディアタイムライン(ローカルタイムラインの中でも画像ありの投稿のみが流れるタイムライン)、Android版Pawooアプリ(Pawooや他のインスタンスにもログインできる)を実装してきた。
また、4月後半にはマストドン本体のバージョンが1.2.2に上がり、細かいバグが修正されたほか、各インスタンスのユーザー数の数え方も変わったという。従来はサインアップ後にメール認証をしていない人もユーザー数としてカウントしていたが、新バージョンではメール認証済みのユーザーだけを数えるようになった。
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