――ここまで、日常生活と技術進歩の関わりを話していただいた。伊藤監督が普段働いているアニメ制作現場でも技術進歩は起こっているのか。
伊藤監督 10年くらい前からアニメ作画のデジタル化が進んでいて、作業環境の変化は起きています。
――アニメ制作現場は「忙しい」などと言われるが、技術進歩で改善されてほしいところ、ほしくないところはあるか。
伊藤監督 改善はされていますが、そのために作業が複雑化して、やや散らかっている部分もあります。
ネックとなっているのは“思考のデジタル化”です。ここ10年くらいで作業環境のデジタル化が進んだことで、長時間をかけて直し続けたり、最後にドカッとまとめて撮影したりしても(締め切りに)間に合わせるのが、アナログ時代に比べると可能になり、ボトルネックをボトルネックのまま放置できるようになってしまっています。デジタル化によって「なんとか間に合うでしょ」という雰囲気がより助長されたといいますか……。
アニメーターはルーズな人が多いので、そのマインドを変えないと効率化は望めないと思います。逆に言うと、そのルーズさが日本のアニメ界の多様性を生んでいた面でもあるので、一概に手出しできない部分でもあると思いますが。
それから、アニメ作画のセクションでは、ペンタブレットなどを使ってデジタルで描く人と、紙などにアナログで描く人が混在していると、ワークフローが2通りになってしまいます。
全員がデジタルで描けるようになれば工程もスムーズです。しかし、アナログで描いている人がいれば、デジタルの絵とアナログの絵を合わせるときに、デジタルで描いたものを紙に印刷して、タップ(※)に貼らないといけなくなります。
(※)タップ……紙に描いた何枚もの絵を貼り合わせ、パラパラとめくることで動画になるかを確認する道具。
例えば、アニメーターがデジタルで描いて演出家もデジタルでチェックするが、作画監督がデジタル作画を扱えない場合は、作画監督がアナログで直せるように印刷して、さらにチェックしたものを再度スキャンする……という流れになります。従来はなかった作業が出てきて、現場は混乱していますね。
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