モデルSのオートパイロット時において、運転者には注意義務があることをメーカーは明記しています。
完全にドライバーが不要となるクルマの出現はまだ先のことですが、私たちは安全性をさらに向上し、ドライバーがより自信を持って運転できるよう、また、高速道路の運転がより楽しくなるように自動運転を開発しています。自動運転技術が有効になっていてもドライバーはクルマを完全に制御することができ、その責任はドライバーが負います。
(テスラジャパンWebサイトより)
運転手がある程度、運転に関与する「準自動運転」(レベル1〜3)であれば、被害者は事故発生時に運転手とメーカーに対して責任追及することが考えられます。
将来的に運転手が全く操作に関与しない完全自動運転(レベル4以上)が実現した場合、運転手の操作責任を問えないと考えれば、事故の法的責任は自動車メーカーのみならず、ソフトウェア開発者やビッグデータ管理者らも責任追及の対象に入ってきそうです。
ただし、完全自動運転であっても、運転手(所有者)は、自動運転システムが滞りなく稼働するためのソフトウェアアップデートやシステムメンテナンス義務を負うと考えれば、運転手(所有者)の法的責任は観念しうることになります。
以上より、自動運転車が今後市場に広く出回っても、当面の間は運転手の法的責任がゼロになることはないと考えられます。
自動運転が進化し、運転手を運転操作や前方注意から解放できればできるほど、運転手が負うべき注意義務の程度は低くなり、かえって自動車メーカーの負う法的責任は重くなると考えられる点は何とも皮肉的です。
自動運転車の開発を進める自動車メーカーにとって、自動運転車の事故発生時に運転手の責任追及をすることは、まさにアクセルを踏みながらブレーキを踏むようなものであり、悩ましいジレンマではないかとも感じます。
自動車メーカーにとっては、自動運転車の開発をこれ以上進めないことで、現在のように事故発生時の一次的な法的責任を運転手が負うままにしておく、という選択肢もあるのかもしれません。
しかしながら、交通事故発生原因の大半は運転手自身の過失(ヒューマンエラー)に存することは明らかである以上、完全自動運転が実現すれば、交通事故は大幅に減少することが期待されます。
自らの法的責任が拡大するリスクを承知で自動運転の進化を追求する自動車メーカーの心意気には頭が下がるものであり、法律関係者の端くれとしても、完全自動運転の達成と、これに伴う交通事故減少を心より応援したいと感じ入るばかりです。
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弁護士・杉浦健二
中小企業から上場企業、海外法人まで日本国内外を含めた案件を取り扱う。契約交渉や債権回収などのビジネス法務、著作権関連、インターネット関連に多く携わる。国内外で講演実績多数。STORIA法律事務所所属。ブログ更新中。
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