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水上バスで観光客の荷物輸送、ヤマト運輸と東京都が実験 狙いは

» 2017年08月10日 17時50分 公開
[村田朱梨ITmedia]

 ヤマト運輸、東京都、東京都公園協会は8月10日、隅田川を運航する水上バスで乗客と一緒に貨物を運ぶ実証実験を始めた。乗船する/しないに関係なく、観光客から手荷物を預かり、手ぶらで観光してもらう間に、宿泊先近くなどに届ける――という利用を想定するが、陸路ではなく水上バスを使うのには「手荷物運び」以外の狙いもあるという。その目的は。

photo 実験の様子

 吾妻橋(墨田区)から明石町・聖路加ガーデン前(中央区)まで、水上バスで荷物を運ぶ。実験では、実際に観光客の手荷物を運ぶわけではなく、ヤマト運輸が用意したダミーの荷物を使う。

 台車2台分の荷物を客室に搬入し、客室後部のスペースにベルトで固定。積み込みにかかる時間は2分半ほど。輸送中は、ヤマト運輸の配達員がそばに付き添う。

 荷物を運び込む台車は、乗船口からスムーズに積み込めるよう、ヤマト運輸が普段使っている台車よりもスリムな作りに。約40(幅)×約80(奥行き)×約107(高さ)センチと、スーツケースが2個ほど入る大きさだ。水上バス自体を貨物輸送用に改造することはしていないという。

photo スリムな作りの台車
photo 中にはスーツケースが
photo 台車を入れる空きスペースは、普段は職員などが利用する流し台などがある場所という

 目的地途中の船着き場で、旅客も乗船。滞ることなく船旅は続き、明石町・聖路加ガーデン前に到着した。荷物の搬出もスムーズで、東京都公園協会によれば「時間のずれはそれほどない」という。

 実験は31日まで行う予定で、旅客輸送への影響、貨物輸送の課題などを検証する。事業化や実用化のめどは未定。

photo 搬出の様子

目的は「観光客の手荷物運び」だけではなく

 これまでもヤマト運輸は、路線バスや鉄道で宅配便を輸送する「客貨混載」に取り組んできたが、水上バスの活用は初の試みだ。2020年東京五輪・パラリンピック開催を視野に入れた取り組みで、混雑しやすい陸路を避けた配送ルートの確立を目指す。

photo 陸路と違い、混雑もない

 実は、今回の目的は「観光客の手荷物運び」だけではない。ヤマト運輸広報戦略部の池田桃子さんは「水路を災害時の物資輸送ルートにも活用したい」と話す。東京都、東京公園協会とともに実証実験するのは、こうした考えがあるからという。

 隅田川を運行する水上バスは、都の「防災船」でもある。普段は東京都公園協会が運航しているが、災害時などは帰宅困難者や物資輸送などに使う考えで、以前から物資輸送実験を検討していたという。

 東京都建設局河川部の松浦大輔管理課長は「水上バスは、普段から人は運んでいるが、荷物の輸送にはなかなか使えていない。今回の実験で事業化につながれば、災害時の荷物輸送にも備えられる」と話す。

photo 松浦大輔管理課長

 「もともと水上バスの船着場は、防災船着場という位置付け」と松浦課長。1995年の阪神淡路大震災の際、陸路が使えず、船による物資輸送が有効だった――という教訓から、防災船着場として建設したものという。「現時点で69カ所ほど。災害時の拠点病院や避難所、備蓄倉庫のすぐそばにある」

 実験のゴール地点である明石町・聖路加ガーデン前の船着場も、聖路加国際病院にほど近い場所だ。「いざという時にきちんと使えるか、確認しておく必要がある」と、普段の運航では使わない船着き場も、月に1度のペースで水上バスが立ち寄り、傷み具合などをチェックしているという。

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