「懐かしい」「時間を忘れて遊んだ」――8月中旬、とあるゲームがネット上で注目を集めた。戦艦を駆り砲音を轟かせる「艦砲射撃」と、美少女スナイパーがスコープ越しに狙撃する「マテリアルスナイパー」。どちらも2000年代のFlashゲームだ。
制作者は、個人ゲームクリエイターのTANAKA U(@TANAKA_U)さん。Twitterで「フォロワーが増えたので」と自己紹介ついでに過去作品のプレイ動画を投稿したところ、「貴殿の作品だったのですか」「やり込んでいました」「神ゲーをありがとう」などのコメントが相次いだ。
「ネットユーザーの皆さんは、意外にも作品と作者が一致していなかったみたいで」と笑うTANAKA UさんのWebサイトは、最盛期の頃は1日あたり数十万PV(ページビュー)以上のアクセスがあったという。10年以上前のゲームにTwitter上でこれだけ反応があることからも、当時の熱狂ぶりが想像できる。
そんな一時代を築いた「Flash」だが、2020年末に終わりを迎える。開発元の米Adobe Systemsが7月末、2020年に「Flash Player」の開発・提供を終了すると発表した。TANAKA Uさんの視点で、Flashゲームが歩んだ十数年を追った。
「衝撃だった」――03年、TANAKA Uさんは専門学生だった。きっかけは、先輩が制作したFlashゲーム。「俺のPCにも入っている『Flash 5』でこんなゲームが作れるのか」。衝動に駆られて、TANAKA UさんもFlashゲームの大量生産を始めた。完成まで至る作品は少なかったが、アイデアは尽きなかった。
艦砲射撃もその1つだった。戦艦を「←」「→」キーで操舵し、敵艦の弾幕を回避しながら狙い撃つ――そんなシューティングゲームが、当時のユーザーの心をつかんだ。
ポイントは「育成要素」を取り入れたこと。04年春、制作ツール「Macromedia Flash MX」のアップデートで、Flash PlayerがユーザーPCのローカル環境にデータを保存する機能(SharedObject)が加わった。Flashゲームを遊ぶのを途中で止めても、データを引き継いで再開できる、いわば「セーブ機能」だ。
早速、艦砲射撃に新要素を追加した。ステージをクリアするとポイントがたまり、そのポイントで兵装を購入して戦艦を強化していく「育成ゲーム」に変わった。セーブ機能を搭載したことで、1度プレイしたユーザーが、何度もサイトに足を運んでくれるようになった。
サイト内のBBSには、感想や要望が毎日書き込まれた。次の日には反映するくらいの勢いで開発に励み、「更新しました」と報告するのが楽しかった。Flashに新しい機能が追加されるたびにこう思った。「これを使えば新しいことができるじゃん」
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