「AI(人工知能)が弁理士の仕事を奪う」――そんな報道に、日本弁理士会の梶俊和副会長が異議を唱えた。「弁理士業務は多岐にわたる複雑な業務で、人間味が必要な仕事。すぐに代替されることはない」と反論している。
弁理士業務は、定型的な書類作成や特許庁の手続きに始まり、発明者へのヒアリング、特許調査、明細書作成、商標登録出願、ライセンス交渉・契約、審決取消訴訟、侵害訴訟まで多岐にわたる。「30〜40ほどの業務があり、かなりの部分を1人でやることが多い」という。
今年9月、日本経済新聞が「弁理士業務の92.1%がAIで代替可能」(野村総研と英オックスフォード大学の共同研究)と報じた。だが梶副会長は「これらの報道には具体性がない」と批判する。「弁理士業務の定義、92.1%という数字の根拠、ここで言うAIとは何か。代替する時期についても不確かだ」(梶副会長)
「最近はAIが人間の仕事を奪うという論調の記事も多い。作家、記者、会計士、医師などホワイトカラーの職業も例に挙がるが、果たしてそれはどれほどの脅威なのか」
梶副会長は、わずか1秒で天気予報記事を執筆したという西日本新聞の“AI記者”を引き合いに出す。人間の記者が日本気象協会から受け取った気温・降水確率など約20項目の天気予報データをソフトウェアに読み込ませると、1秒で文章を出力したというものだ。
ベースになっているのは、AP通信や米Yahoo!なども採用しているAI記者ソフト「Wordsmith」(米Automated Insights製)。西日本新聞では、記事のひな型となる文章、データに応じて使い分ける言葉や計算式などは人間が用意、設定したという。
「データを読み込ませたり、記事のひな型になる文章や言葉の選定など、重要な作業はまだ人間が担っている。このニュースを見て、どれほどの記者が職を失うと脅威に感じただろうか」
「人間が得意な部分は人間が、AIが得意な部分はAIに任せればいい」と梶副会長は話す。弁理士業務の中には「そう簡単にAIが代替できない部分が多い」という。例えば以下のようなものだ。
定型的な書類作成や情報検索、統計的分析などはAIに向くが、対人スキルが必要な場面は人間の方がうまく対応できるだろう。梶副会長は、AIで効率化できる業務はAIを活用すべきという考えだ。「発明者や依頼者の意図をくみ、いかに満足度の高い法的・技術的サービスを提供できるかが重要」とし、「人間とAIの協業」に可能性を見出している。
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