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「森のくまさん」騒動からJASRAC問題まで……著作権10大ニュースで考える、情報社会の明日はどっちだ?寄稿・福井健策弁護士(2/4 ページ)

» 2017年12月26日 10時00分 公開
[福井健策ITmedia]

 さて引用の条件は裁判所も揺れているが、特に重要な注意点に「主従関係」というものがある。あくまで自分の文章などがメインで、人の作品は説明の補足程度の利用にとどめよ、といった意味だ。だから人の作品が鑑賞の主眼になったりすると厳しい。では山際式辞はどうか。ディラン歌詞の分量は式辞全体の5〜10%というところか。やや長いのが気になるが、ギリギリ許容範囲と感じる。

 第一、そうでないとこうした式辞はディランの許可がないと出来ない、ということになりかねない。そう、総長は歌詞を和訳したので、これもJASRACの許可だけでは出来ないのだ。しかしディランに和訳の許可申請なんてして返事が来るのか? ノーベル賞委員会にもなかなか返事しなかった男だ。きっと引用自体をあきらめることになるだろう。それはあまりに惜しい気がする。

 なお、論争自体はJASRAC理事長が会見で「引用なので請求しない」と明言して落着した。万人が発信者の時代、誰しも直面する「引用」の限界に注目が集まった事件だ。

4. JASRAC vs 音楽教室、裁判闘争へ

 そして6月。年初から今年最大の著作権論争であり続けた「JASRAC vs 音楽教室」が新局面を迎える。2000年代に入り、落ち込んで行くCDの売上に逆行するように演奏権の徴収対象を広げ続けて来たJASRAC。ダンス教室、フィットネスクラブ、カラオケ教室と続いて音楽教室からの徴収方針(受講料の2.5%)を発表した段階で、猛反発が教室側から来た。そしてついに、250社によるJASRAC逆提訴に至ったのだ。

画像 JASRACのビル

 論点は何か。JASRACが根拠にするのは演奏権で、「公衆に聞かせるための演奏」を行う際には彼らの許可がいる。音楽教室は反論する。「公衆? 発表会のことを言っているんですか? だったら別途処理してますけど」「いや違います。生徒が公衆です」「いや生徒って、あれひとりとかせいぜい数人ですよ」「入れ替わり立ち代わり来るから公衆です」「いやいや、教えて練習してるだけで、公衆に聞かせるための演奏なんてやってませんから」

 条文的にはこういった解釈論争だ。あわせて、教えなければ弾けるようにならないのに、教室の負担を増やしたら音楽文化の根を弱らせてしまわないか? という疑問が根底にあるのだろう。これには宇多田ヒカルなどアーティストからもかなり違和感の表明があって、大論争になった。教室での指導は諸外国でも扱いの割れる、微妙な領域である。(関連コラム:JASRAC音楽教室問題から1週間。取材等で話したことをざっくりまとめてみる

 しかしすごいなJASRAC。今年はほかにも「葬儀場論争」とか、「外国映画使用料値上げ」とか、ほとんど毎月登場の様相を呈した。まさにJASRAC自体がキラーコンテンツ化したというかw、情報社会の中でいかに「権利の集中管理のあり方」が人々の関心の的かを実感させた年だった。

5. 相次ぐ巨大海賊版サイトのニュース

 さて夏の前後でネット界を騒がせたJASRACと並ぶ双璧は、現れては消えた巨大海賊版サイトたちである。ご覧頂いているのは、当時最強最悪といわれた「フリーブックス」で、日本のマンガ・小説・雑誌などが3万5000〜5万点も読み放題になっていた。

画像 猛威をふるったフリーブックス

 これは電子ファイルを単にサーバで公開する「リーディングサイト」と言われるタイプ。最もストレートな海賊版で、もちろん著作権侵害だ。クチコミで瞬く間に読者が拡大して月間訪問者1500万人に達したと言われ、そして5月に突如閉鎖された。

 7月には、収入3億円超と報じられた「ネタバレサイト」で5人が逮捕。更に10月には海賊版へのリンク集として長く日本の海賊版界に君臨した「はるか夢の址(あと)」などで、関係者9人が合同捜査本部によって逮捕されるという事件に発展した

 フリーブックス閉鎖の原因はさまざまな憶測があり、筆者は対策に関わったので詳しいことは書けないが、対策は次の3つの壁に阻まれて困難を極めた、とは言える。「(1)海外に責任追及の難しいサイトがある」「(2)そこに身元を隠して海賊版をアップできる」「(3)そこへのリンクは従来適法と考えられてきた」の3点だ。

 海賊版はいったん閉鎖されてもより大規模になって復活を繰り返しており、このまままん延が続けば果たしてクリエイター達は従来のビジネスで生存を続けられるか疑問、というところまで来ている。そのため、「海賊版リンクの規制」や「海外海賊版サイトのブロッキング」などの議論も浮上し、今後も目が離せない。

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